レポート

科学のおすすめ本ー ロボットは涙を流すか 映画と現実の狭間

2010.03.29

安田和宏 / 推薦者/SciencePortal特派員

ロボットは涙を流すか 映画と現実の狭間
 ISBN: 978-4569775630
 定 価: 800円+税
 著 者: 石黒浩 氏・池田瑠絵 氏
 発 行: 株式会社PHP研究所
(PHPサイエンス・ワールド新書)
 頁: 189頁
 発行日: 2010年2月3日

情報がすっと頭に入ってくる印象を与える好書である。というのも、知能ロボット研究者の石黒氏の以前までの文献をもとに、サイエンスライターである池谷氏が素原稿を書き、その後の二人のやり取りを通して仕上げられているからである。SF映画からトピックスを取り上げるという、ロボット初心者にとって分かりやすい切り口を提供していること以上に、この共著スタイルは秀逸である。著者の二人が、ロボット映画を見ながら会話を楽しんでいる様子が目に浮かぶようである。

映画『サロゲート』が2009年に米国で公開され、いよいよ日本の映画館でも今年観ることができる。生身の人間ではなく、「身代わりロボット=サロゲート」が活躍する近未来を描いている。この映画に、著者の一人である石黒氏が以前にCNNから取材を受けた際の映像が挿入されているのである。

石黒氏は「ジェノミノイド」と呼ばれるロボットを開発した研究者である。見た目を本人とうり二つにし、さらにそれを遠隔操作するしくみまでも搭載した、いわゆるアンドロイドを作り出した。研究は、ロボット製作のみにとどまらず、ジェノミノイドに接する人間が、それ(彼/彼女)をどう感じるのか、という心理的な部分にまで切り込んでいる。

ロボットの外見が人間に近づけば近づくほど、人はそのロボットに親近感を抱く。ついには人間と見分けがつかなくなるのだが、そうなる直前に、親近感が急降下する現象がみられる。それが「不気味の谷」と呼ばれるものだ。自分の娘、そして自分自身のジェノミノイド製作を通して、その感覚を経験した石黒氏や彼の研究グループメンバーの言葉には、とても説得力がある。

「ケータイはロボットである」「コンビニの店員さんは人間でしたか?」などの小見出しにも興味を魅かれるが、シンプルに、ロボットが主役の”SF映画ガイド”としても、楽しく読める。しかし、「人間とはなにか」「ロボットとどこまで人間に近づけるか」が基本テーマとして貫かれていることを忘れてはいけない。本書のサブタイトル通り、フィクションである映画と現実の先端研究、さらに私たちの将来の実生活とのあいだに何があるのか、をさらりと読み手に突きつける。気軽に手に取れる新書で、人間そのものを哲学的にみる深い思考の世界に浸ることができる。

石黒氏は、2007年、英国のコンサルティング会社の調査「生きている天才100人」において、日本人最高位の26位に選出されている。本書をきっかけに、同様のテーマでより詳細な論考を含む、石黒浩『ロボットとは何か 人の心を写す鏡』講談社現代新書(2009年、定価:740円+税)を読まれることもお勧めしたい。

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