|
日本の科学技術・イノベーション政策の予算配分や優先順位づけ等の概要について、スウェーデンにおける政策との比較検討を目途として企画された本です。スウェーデン・イノベーションシステム庁(VINNOVA)より発行されており、どなたでもインターネット経由でフリーにダウンロードしてお読みいただくことが可能です。内容の一部を、抜粋してご紹介いたします。
- 日本では1995年に科学技術基本法が制定され、政府主導の科学技術政策が本格的にスタートしました。これにより5年間を一区切りとする、複数年度にまたがる中期計画が実施されるようになりました。その後2001年には、首相を議長とする総合科学技術会議(CSTP)が内閣府に組織されました。総合科学技術会議は、科学技術に加えイノベーションを政策的に強力に推進するため、専門委員会やワーキンググループ、そして100人以上のスタッフによる事務運営が行われています。
- CSTPでは、政府の科学技術予算において基礎研究をタイプ1とタイプ2とに大きく分けています。タイプ1とは自由な発想に基づく萌芽的基礎研究、タイプ2とは、目的志向型の基礎研究を指します。「科学技術政策上」重要と位置づけられているのは目的志向型基礎研究の一部です。
- 日本の科学技術政策は、スウェーデンのそれとは大きな違いがあります。例えば、
- 研究機関の多くが独立行政法人として運営されているが、暫定的に官庁の一部にひも付きの形で政府からの予算で運営されており、自治体や私立の非営利研究機関は極めて少なくなっている
- 私立大学が日本の大学全体の75%の学生数を占めているのにもかかわらず、政府からの研究資金の多くが、国立大学に投じられている
- 現在は、2011年4月から始まる予定の、第4期科学技術基本計画の策定に向けた論点整理が行われています。主な論点としては以下のようなものがあります。
- 対国内総生産(GDP)比での科学技術予算の割り当て
- 研究開発予算の割り振りの方針転換(出口を見据えた研究開発への重点化)
- ビジネスセクタへの戦略的関与
- 問題解決型研究開発予算への移行
- 国際的に通用する人材の開発
本書に掲載されている内容は、CSTPのウェブサイトに公開された議事録や著者の一人である永野博氏の所属するGRIPS(政策研究大学院大学)のセミナーなどによって、既に多くの方々に知られているものが大部分だと思いますが、英語で書かれたものはあまり多くないかと思います。また、第3期から第4期科学技術基本計画にかけて日本の科学技術政策もイノベーションを意識したものに大きく変容を遂げようとしています。ここ最近の日本の科学技術政策の動きを俯瞰(ふかん)する上で、本書は有用な一冊といえるでしょう。