レポート

科学のおすすめ本ー 光るクラゲがノーベル賞をとった理由 蛍光タンパク質GFPの発見物語

2009.05.11

立花浩司 / 推薦者/SciencePortal特派員

光るクラゲがノーベル賞をとった理由 蛍光タンパク質GFPの発見物語
 ISBN: ISBN978-4-535-78628-8
 定 価: 1,700円+税
 監 修: 石浦章一 氏
 編 著: 生化学若い研究者の会
 発 行: 日本評論社
 頁: 210頁
 発行日: 2009年4月20日

昨年10月に下村脩氏のノーベル化学賞受賞が発表されてから、はや半年が経過した。緑色蛍光タンパク質(GFP)をテーマにしたサイエンスカフェやサイエンスミニトーク、下村氏のインタビュー記事が掲載された新聞や雑誌の発行、さらに下村氏が講演会で自ら話されたことなどによって、GFP自体や発見されるまでの経緯などについては、かなり広く知られるようになった。

その点、本書はこれまでに登場したGFP関連の書籍やイベント等の内容と比べ、ひと味もふた味も違った特徴をもっている。著者は、GFPをはじめとするさまざまな蛍光タンパク質をリサーチツールとして日常的に使っている現役の若手研究者たち。下村氏がGFPの発見までに至る話題を中心に置きつつ、生命科学の基礎研究の時代的な流れについて、一般用語で非常にわかりやすく俯瞰(ふかん)している。しかも現場の目線で書かれているため、下村氏がGFP研究にかかわった際に用いた研究手法などについても、余すところなく解説されている。

また、GFPからはじまった蛍光タンパク質の開発や、応用研究の最先端の話題についても言及されている。GFPの発見自体、既に40年以上昔の話なので、その後どのような研究が展開し、今後どういう方向に研究が向かっていくのかといったことは、多くの方が共通して抱く関心事だろう。下村氏自身、蛍光タンパク質の応用研究にはほとんどかかわっていないので、編集におけるこういった配慮にたいへん好感が持てる。

さらに、本書で特筆すべきこととして、一歩引いた立場から書かれているという点が挙げられよう。研究者が書く一般書というと、どうしても研究全体を俯瞰するより自らの研究成果を中心において詳細に伝えることが主になったものが多い印象を受ける。しかし、この本にはそういったクセを感じさせるところがない。加えて、蛍光タンパク質の応用研究について解説するために、理化学研究所の宮脇敦史氏のインタビュー記事を挟んでいるが、氏から本をまとめる上でうまく「欲しい情報」だけを引き出すことに成功している。

おそらく、若手研究者が分担執筆という形をとりながらも、一般書の執筆経験が豊富で、東京大学科学技術インタープリター養成プログラムの執行委員を務めている、東京大学大学院総合文化研究科の石浦章一氏が監修者として、うまく全体のバランスをとったのが功を奏したのではないだろうか。

雑誌でも単行本でも基本的な押さえるべきところは変わらないものと思うが、よい本の陰にはよい監修者がいるものだ。本書も、巻末に書かれているようにわずか2カ月半という短時間にこれだけの良書に仕上がったというのは、よい監修者に恵まれ、かつ精力的な若手研究者執筆有志がそろったことが、如実に現れた結果ではないかと感じた。つよく一読をお勧めしたい。

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