JSTイノベーションプラザ福岡は、博多湾に臨む福岡市の百道浜・地行浜地区を中心にしたウォーターフロント開発地区に立地している。福岡空港から地下鉄やバスを乗り継いで30分以内で到着し、福岡タワーやヤフードーム等も隣接した福岡の新しいIT産業研究拠点地域だ。
プラザ福岡は、地域イノベーション創出総合支援事業から生み出された拠点の中でも平成13年11月という初期に開館。担当地域は、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県の北部九州および沖縄地域と広い。持田勲館長は、「適切な研究資金を適切な方法で研究者の人たちに支援し、一緒に研究を進めることが私たちの一番の役目」と話す。
プラザ福岡では、担当地域内の大学、公設試験研究機関などから生み出された研究成果を社会還元するために、創造的な基盤研究を奨励・振興し、有用実用技術として展開できるように資金と実用化へのノウハウの両面で研究者を支援している。「研究費配分はこれまで中央一括型が基本だった。それに対して当館のようなJSTイノベーション拠点、つまり地域が責任を持って資金の行き先を考えることで、きめ細かい支援ができる。中央で国の重要施策を重点的に行うことは大事だが、各地域で日本の科学技術を支える多くの研究者に支援することも重要なことだ」
館長をはじめ、4名のコーディネータ、技術参事、事務局長が、地域内の研究者や研究機関をくまなく訪れ、優れた研究や研究の萌芽の探索に汗を流す。「各研究者に適した研究費公募の案内をしたり、産業界の声を届けるなど日常活動の中から信頼関係が構築されていく。これが私たちの活動のベースとなる」
地域内の各省庁の出先機関(九州経済産業局や九州農政局)、中小企業基盤整備機構、各自治体の科学技術系財団と情報の一部を共有するなど、連絡を密にすることで研究成果の振興を図っている。「日本は縄張り意識が強い。しかし、関係機関と“この地域をどうする”ということを突き詰めながら一緒に事業を進めていく中で、おのおのの有益さが認識でき、お互いの重要性も再確認できるようになってきた」
プラザは、JSTの地域拠点であることから地域内での科学の普及や啓蒙活動も行っている。特に小学生や中学生に科学の面白さや楽しさ、重要性を少しでも理解してもらえるようなイベントも行っている。また、新規の技術領域や産業領域を拓くために、地域内で行われている研究を紹介する研究会や講演会を主催している。「研究分野が異なると、身近にいる研究者同士も話す機会がなかなかない。これらのイベントを通じて、大学等の研究者や企業関係者などに地域内で強い産業や科学技術について知ってもらうことで、全く異なる分野からでも共同研究の糸口を見つけてもらうことができる」
研究者たちが十二分の力で研究を続けるためには、資金を支援し、さらに助言をして、共同研究を行う企業を呼びこんでくることも重要。まず、研究資金を得るための第一関門は申請書だ。研究内容がいかに良くても、受け手側にとって端的でわかりやすくなっていなければ採用は難しい。プラザのスタッフたちは、申請書作成に協力するなどして採択率の向上にも貢献し“共に研究を進める”という気持ちを研究者との間で共有しているという。
1課題に年間200万円が支援されるシーズ発掘試験(コーディネータらが発掘した大学等の研究シーズの実用化を促すための研究事業)では、500件を超える応募のうち約100件を採用した。医薬系の採択率が比較的高い。「この事業は、多くの人に資金を支援できる良い制度。現在の採択率は20%ほど。優れた研究提案でも採択されていないので、採択率が30〜40%になり、応募件数も1000件を超えるようになれば、地域あるいは日本の産業や科学技術全体の力強い底上げが期待できる」
また、1課題あたり年間2600万円の研究費が支援され、3年程度行われる育成研究(大学などのシーズをもとに産学共同研究を行う事業)は、プラザの最も重要な事業。プラザと大学等との共同研究であることから、研究場所の提供や出口イメージなどを企業へ提案、特許化の支援などを行ってきた。
九州大学大学院農学研究院の小名俊博准教授をリーダーとする『がん治療の臨床応用に向けた高感度複合システムの創製』は、平成15年度に採択された育成研究で、個々のがん細胞に対して抗がん剤の効果を判定するテーラーメイド医療システムの開発を目指したもの。平成18年度には、JST本部が全国規模で募集する研究成果資源活用型に採択された。今年度は最終年度を迎え、製品レベルの試作機を開発中だ。「育成研究は、今年度から委託研究となったため、この事業でのプラザの立場が変化した。その中で我々は研究資金を出した側の監督というふうに見えそうだが、これまでと同様に研究を多面的に支援することに努めたい」
昨年までプラザが支援していた、単年度実施の実用化の可能性試験(FS試験)や実証試験は100万〜400万円と比較的小型の支援額だが、良い成果も多数出ている。
佐賀大学理工学部電子システム工学講座の林信哉講師のプラズマラジカル滅菌システムの研究開発では、空気の中にプラズマを通すことで活性酸素を起こし滅菌する医療材料用滅菌装置を開発。平成16年度にFS試験を行い、良い結果が出たため、翌年に実証試験を実施。現在、ライセンス企業が商品化を進めている。林講師は光反応の研究をしており装置開発とは無縁だったが、この技術が何かの役に立たないかとプラザのコーディネータに相談したことに端を発して装置の開発が始まったという。
持田館長は「研究者には、この研究はもしかしたら他分野でも使えるのではないかと常に意識してほしい。社会の問題に対して、自分にできることを考えることから、研究のシーズが生み出される。シーズ発掘試験のような基盤を支える研究課題の採択率は50%が理想的だ。多くの研究者に頑張る気概を与えていきたい」と力強く語った。
“宝物(イノベーション)”は、まだまだ日本各地の大学等の小さな研究室に眠っている。ダイヤモンドは原石から念入りに研磨しないと美しく輝かない。その工程と同じでJSTイノベーションプラザ・サテライトで行っているシーズ発掘などの事業は、日本各地で静かに進行している創造的な研究を支援(研磨)して、社会的なインパクトのある成果を生み出す研究に仕上げるということなのではないか。その”宝物”は、日本ひいては世界的に輝きを発する研究になるかもしれない。
(科学新聞 2008年6月20日号より)
<所在地・問い合わせ>
JSTイノベーションプラザ福岡
〒814-0001 福岡県福岡市早良区百道浜3-8-34
持田勲(もちだ いさお)氏のプロフィール
東京大学大学院工学研究科修了。82年九州大学教授、95年九州大学機能物質科学研究所所長を経て、04年退官。現在、JSTイノベーションプラザ福岡館長、財団法人九州環境管理協会理事長などを務める。07年度日本エネルギー学会功績賞受賞。