レポート

地域からの新しい風ー 骨髄幹細胞で脳梗塞治療 札幌医大の成果に驚き

2008.11.28

大味一夫 氏 / JSTイノベーションプラザ北海道 館長

大味一夫 氏(JSTイノベーションプラザ北海道 館長)
大味一夫 氏(JSTイノベーションプラザ北海道 館長)

 科学技術基本法の第3・4条では、科学技術に果たす国および地方公共団体の役割と責務が規定されている。さらにこれまで3期にわたって閣議決定されてきた科学技術基本計画では、国は地域の自治体と連携して、地域にあるポテンシャルを有効に活用し、国の目的を達成することが明記されている。大味一夫館長は「基本法と基本計画の精神に則って、プラザのモデル作りをするのが私の仕事です」と話す。

 北海道大学は、全体で170ヘクタールという広大な敷地を持っている。その一画にある30ヘクタールの北キャンパスには創成科学研究棟や人獣共通感染症リサーチセンターなどの研究施設が集積し、さらに塩野義製薬の創薬基盤技術研究棟や中小企業機構のインキュベーション施設などが完成しつつある。

 「国立大学のキャンパスに民間の建物が建った第1号が、北海道産学官協働センター(コラボほっかいどう)で、北キャンパスの一画にできました。次がプラザ北海道なのですが、国有地の使用のための手続きに時間を要するため、道を挟んで反対側の道立の試験研究機関の敷地内に建てました。その後、ポストゲノム棟や創成科学研究棟などが完成し、現在は先端科学技術共同研究センターをはじめ数多くの研究施設が集まっています。これが北海道産学連携の拠点『北大リサーチ&ビジネスパーク』です」

 北大リサーチ&ビジネスパークは、北大の「知の創造」と「知の活用」によって、経済・地域の活性化を進めている。さっぽろベンチャー創出特区として認可を受けるとともに、北大と産業界、道立試験研究機関、JST等が協定を結び、連携研究推進体を形成している。この実現のために努力した一人が大味館長だ。

 「2002年に北キャンパス町内会というものを作ったんです。私どもの総館長の廣重力先生(元北大総長)が町内会長です。町内会には、大学、民間、国、公設試、JSTという異なる組織のものが集まっており、常に顔を会わせて色々な情報交換をしている。その中から、新たな産学連携プロジェクトも生まれています」

 その一つが、03年度に文科省科学技術振興調整費の「戦略的研究拠点育成」事業、いわゆるスーパーCOEに採択された「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」だ。

 JSTイノベーションプラザの役割は、科学技術コーディネーターの活動を支援し、大学等の研究成果と企業ニーズのマッチングを進め、地域の産学官交流を支援し、さらに育成研究を進めたり、JSTの他事業に橋渡ししていくことにある。

 「プラザというと、建物があって、そこで研究費を配分したり、研究を行ったりということばかりが注目されがちですが、実は一番重要なのは、プラザという名のとおり、産学官の研究者や技術者がいつも集まり、交流しているということです。我々のプラザには年間約3000人の技術者や研究者が来ます。1日の時もあれば数日の場合もありますが、企業や大学、公設試の研究者がコーディネーターと一緒に、プラザのセミナー室で会議をして、夕方からは隣のホール部屋で懇親会をやっています。こうした人と人との交流こそが大事なんです」

 現在、日本全国に科学技術コーディネーターは約1700人ほどいるといわれているが、北海道では、プラザのコーディネーターと道内のコーディネーター約80人が活動している。大味館長は「そうしたコーディネーターが北大北キャンパスをはじめ、道内の大学・研究所を走り回っています」という。その結果、シーズ発掘試験(コーディネーター等が発掘した大学等の研究シーズを実用化に向けて育成するため年間200万円の研究費を配分)では、全国1位、2位の申請・採択数を確保している。

 より実用化に近い育成研究(年間2600万円×3年間、企業との共同研究)について、大味館長は「イノベーションの成果は経済効果としてみるべきです」と話す。

 「国の研究というのは、研究期間が終了すれば、論文や特許権化が何件でしたというものが多いのですが、うちの育成研究では、JSTの他の制度に結びつけたり、事業化に向けて共同研究相手を紹介するなどして、事業化に結びつけています。プラザの事業が発足して6年間、3年の研究期間を終了した課題10件で、これまでの売り上げ実績額は10億6000万円で、将来的には年間200億円ほどの売り上げを見込んでいます。

 例えば、田村守・北大電子科学研教授の研究では、『蛍光相関分光法を用いてBSE(牛海綿状脳症)検体を全自動で迅速に検査できる検査法と装置』の開発を目指して、浜松フォトニクスや道立衛生研究所とのプロジェクトをコーディネートしました。蛍光相関分析装置は15台、蛍光相互相関分析装置は4台売れています(約1億4000万円)。この汎用装置の開発は、BSEだけでなく、微量の化学物質や微生物などの検出が可能なので、他省庁でも注目されているようです。

 また、札幌医科大学の佐藤昇志教授の研究は、『大腸ガンなどの上皮性ガンや滑膜肉腫に有効で日本人の持つ遺伝子型(HLA型)に適したガンワクチンや検査システム』の開発を目指して研究を進めていたのですが、JST研究員が抗体を発見し、新たな免疫機構が分かってきたので、実用化に向けて研究期間を6カ月延長しました。これまで治療法のなかった膵臓ガンにも効果があることが臨床研究で分かったので、大手製薬会社が事業化に向けて、JST事業化プログラムに申請予定です。また共同研究企業からは、研究試薬用抗体を販売しています(検査抗体の売り上げ約1000万円)」

 その他、薬物活性評価の研究を水産会社と結びつけることで、「化粧品や機能性食品」として事業化(売り上げ約4億2000万円)、経産省と連携して「機能食品や診断薬」を実用化(売り上げ約4億6000万円)したりと、様々な研究プロジェクトを実用化に結びつけてきたという。

 多くの研究課題がある中で、大味館長が一押しするのが、札幌医科大学の本望修講師が代表研究者を務める、「骨髄幹細胞を用いた神経再生医療」へ向けた実用化研究開発だ。本望講師らは、ヒト骨髄細胞群の中から神経系細胞へ分化する幹細胞を同定し、この幹細胞が脳梗塞動物モデルで脳神経再生に極めて有効であることを世界で初めて発見した。これをヒトに応用し、実際の治療に結び付けるための研究を進めた。

 「脊髄の中の幹細胞は、身体のどこかが悪くなると、そこに回って、骨を修復したり、臓器を修復しています。その力を強化してやるのがこの治療法です。骨髄液を20〜30cc取り出して、その中から脳に行く幹細胞を分離して、それを1万倍に増殖させてから、静脈注射します。実際の臨床試験で、脳梗塞の患者さんに適用したのですが、夜中に注射して、翌朝には手が動くようになった例もあります。これは今流行の再生医療とは違い『修復』なんです。MRIでは真っ白に写って、全部の細胞が死んでいるように見えますが、生き残っている細胞があって、神経幹細胞が入っていくとサイトカインを出して活性化し、そこから血管が再生して、組織が再生していくんです。これを見たときには本当に驚きました」

 この研究も、プラザがマネージメントして、札幌医科大学と北大との連携を進めたことで、北大の持つGMP設備を使ってヒト骨髄幹細胞の分離・増殖・保管技術を確立し、臨床研究を早期に実現できたという。また、大学発ベンチャーも設立した。現在、50人規模の臨床研究を予定しており、すでに15例の臨床研究を行っている。

 この画期的な治療は、昨年11月5日にNHKスペシャルで放映され、全国の患者さんや主治医から問い合わせが殺到したという。「この治療はまだ札幌医大でしかできません。多くの患者さんや医療現場の方々の要望に応えて、早く全国で展開できるように全力で支援していきます」と熱く語った。

(科学新聞 2008年6月6日号より)

<所在地・問い合わせ>
JSTイノベーションプラザ北海道
〒060-0819 札幌市北区北19条西11丁目

大味一夫 氏(JSTイノベーションプラザ北海道 館長)
大味一夫 氏
(おおみ かずお)

大味一夫(おおみ かずお)氏のプロフィール
北海道大学工学部卒。JSTの科学技術振興施策、流動研究システムによる基礎研究の推進、大学・国研等の基礎研究の成果の技術移転、地域における科学技術振興等の施策の立案から推進に従事。2002年1月からプラザ北海道館長を務める。

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