レポート

科学のおすすめ本ー きちんとわかる時計遺伝子

2008.11.04

立花浩司 / 推薦者/SciencePortal特派員

きちんとわかる時計遺伝子

ISBN: ISBN978-4-89173-121-2
定 価: 本体1,500円+税
 編著者: 独立行政法人 産業技術総合研究所
 出 版: 白日社
 頁: 268頁

つくば市にある、産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 生物時計研究グループは、生物時計に関する世界でも指折りの最先端の研究拠点。本書は、同研究グループをはじめ、全国の研究者の執筆協力によって全編書き下ろされた、きわめて完成度の高い一般書だ。

生物時計とは、生物が生まれつき体内に持っている、覚醒と睡眠を一定周期で繰り返すリズムのことをいう。これまでに、ヒトの周期リズムは約25時間であることが確認されており、概ね一日を周期としていることから「概日(サーカディアン)リズム」とよばれている。

1971年、ショウジョウバエにおける時計遺伝子“Period”の発見によって、生物時計の存在が明らかとなった。生体メカニズムからヒントを得てモノづくりが行われるケースは枚挙に暇がないが、既に実用化されたモノ(時計)からヒントを得て生体メカニズムの解明に結びつけるという例は、広範なライフサイエンス研究の中でもきわめて珍しい。自由な発想なくして、生物の体内に「時計」があるということはなかなかひらめかないのではないか。

Period遺伝子の発見以降、時計遺伝子研究における代表的なモデル生物として、ショウジョウバエはもっとも一般的に用いられている。本書では、一般市民が読者であることを強く意識し、ショウジョウバエがなぜモデル生物として選ばれたかというところから、懇切丁寧な説明がされている。しかも、最近の研究成果まできちんと読みやすい形で言及してくれているところが嬉しい。

序文で著者は『「時計遺伝子最前線」の一部でしかない』と断ってはいるものの、ショウジョウバエの例だけにとどまらず、哺乳類や最近急速に研究が進んでいるシアノバクテリア(ラン藻)の例についても詳述している。シアノバクテリアを用いた時計遺伝子の研究に関しては、名古屋大学大学院理学研究科の近藤孝男研究室がとくに知られているが、本書では同研究室の助教自らシアノバクテリアの章の執筆を担当していることから、非常に読みごたえがある。

各章ごとの著者まかせにせず、編者が徹底して校正していることを伺わせる全体の書きぶりも秀逸。生物時計、時計遺伝子に関心のあるすべての方にとって、まさにおすすめの一冊だといえよう。

    • 追記
  • 時計遺伝子をテーマに、本書の共著者のひとりでもある生物時計研究グループの花井修次研究員をゲストスピーカーに迎えて、産総研サイエンスカフェが開催されている。
    • 第7回産総研サイエンスカフェ「体内時計のはなし」(報告)
      産業技術総合研究所ホームページのレポート記事
  • シアノバクテリアの時計遺伝子に関して、名古屋大学大学院理学研究科の近藤孝男研究室に所属していた冨田淳氏をゲストスピーカーに迎えて、ライブトークScienceEdgeが開催されている。
    • ScienceEdge vol.2 冨田淳??:生物時計の新たな発見 -眠る細胞の眠らない分子
  • シアノバクテリアの時計遺伝子の研究を発展しつつ、サイエンスコミュニケーションにも活動の軸足を置きつつある岩崎秀雄氏は、現在は近藤孝男研究室から独立して早稲田大学にラボを構えている。
    • 早稲田大学 細胞分子ネットワーク研究室(岩崎研)

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