レポート

科学のおすすめ本ー 身近なムシのびっくり新常識100

2008.06.23

市原達也氏 / 推薦者/カメラマン

身近なムシのびっくり新常識100
 ISBN: ISBN978-4797343588
 定 価: 952円+税
 著 者: 森昭彦 氏
 発 行: ソフトバンククリエイティブ
 頁: 222頁
 発売日: 2008年5月24日

 アリやイモムシ、ハチ……私たちの生活の中で当たり前のようにいる虫たちにスポットを当て、その驚くべき生態を紹介したのが本書である。虫の本というとあまり知られていない昆虫の不思議な生態を紹介したり、1つの種類に限定して深く掘り下げた本は見かけるが、普段または子供のころによく見かけた虫たちが実はすごい生態を身につけていることが紹介されている。

 ダニは体長の150倍の高さまでジャンプし、そのとき140Gも体重にかかっている。当然ながら人間には想像もできない値だろう。体重の30倍の重さの餌を抱えて飛ぶハチ……こんな数値的な驚きは随所にある。

 生態に関しても興味深いモノがあふれている。集団生活をしているアリとアブラムシとの共生は広く知られているが、巣の中に虫を飼って共同生活をする種類が身近にいることのは知らなかった。見た目はほとんど同じでも、益虫と害虫がいたり、刺さないスズメバチなど、書き始めたらきりがない。

 多くの人は、子供の頃に身近な存在だった虫たち……不思議な容姿と生態は、好奇心旺盛な子供には宝箱のように見える。いつしか触れる機会も少なくなり、興味はあふれる情報のほうへ向かう。多くの知識が身についたつもりでも、子供のころに不思議に思った疑問はまだ解けていないはずだ。幼虫から成虫になるとき、サナギの中ではどうやって形を変えているのか……容姿だけでなく食べ物も行動も変わる。虫にはどんな視界が広がっているのか……虫は本当に記憶力はほとんどなく、本能だけで行動しているのか。そんな疑問も本書では現在分かっている範囲内で分かりやすく紹介されている。

 著者のユーモアあふれる語り口もあり、それなりの情報量があるにもかかわらず、あっという間に読み終えてしまった。私が特に興味をもったのは、重度の糖尿病で手足の切断を余儀なくされた患者が、ハエの幼虫により切断を回避できるという事実。ぞっとはするが、そのメカニズムには感嘆した。

 私の場合、カメラマンという職業柄、細かな部分が気になるつもりでいたが、著者の洞察力、観察力、考察力には驚かされる。これだけ身近な場所に被写体があったことを見過ごしていたようだ。 自分がそうだったように、子供が虫への興味と疑問を持ったとき、本書を読んでいれば子供の質問に答えられるかもしれない。もちろん、自分もそうだ。本書を読んだあとは庭や道ばたにいる虫たちの見方が変わることは間違いない。

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