レポート

科学のおすすめ本ー へその緒が語る体内汚染 〜未来世代を守るために〜

2008.06.11

神村章子 / 推薦者/SciencePortal特派員

へその緒が語る体内汚染 〜未来世代を守るために〜
 ISBN: ISBN978-4-7741-3442-0
 定 価: 1,580円+税
 編 著: 森千里 氏・戸高恵美子 氏
 発 行: 技術評論社
 頁: 208頁
 発売日: 2008年3月29日

 本書は、著者の約20年間の研究成果を、専門家対象ではなく一般向けにまとめられたもので、「知りたい!サイエンス」シリーズのうちの一冊である。この100年の間に私たちを取り巻く環境は激変し、便利な生活とともに環境の悪化というリスクを背負って生活をしている。その中で、現在子供たちが置かれている現状の紹介から今後の対策までを、7章にわたって紹介している。

 へその緒(臍帯)とは、胎児が母体の中で成長する上で、必要な栄養素を補給し老廃物を処理する唯一の組織である。実は、このへその緒から、PCB、DDT、TBT、ダイオキシン類などの様々な化学物質が高い割合で検出されている。現在では製造、輸入、使用が禁止されている場合の多い化学物質である。この事実は、今から40年以上前の高度経済成長期時代の弊害であった公害病が、決して過去のことではないことを物語っている。

 本書では、様々な化学物質による汚染がなぜ起こったのか、それは決して自然発生的ではなく、それぞれが社会的要因で引き起こされたという事実を解き明かしている。また、1990年代から報告されるようになった内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)による弊害も示唆している。これらはいずれも脂溶性であるために、母体内に蓄積し、妊娠すると母体経由で胎児が汚染されるため、世代を超えて影響があることと、実は直接曝露されなくても、生まれる前から誰もが汚染されていることが問題であるという。

 多種にわたる化学物質に囲まれることは避けられない時代である。今、子供たちの体には、このことが原因と予想される様々な症状が出てきているとも言われている。それらの化学物質汚染が具体的にどのように影響するのかを解明し、次世代の子供たちの健康と生活環境を守るために、日本では環境省が今年から、小児環境保健疫学調査の予備調査を開始する。同様の子供に関する健康調査が、世界各国で行われ始めている。国の施策のほか、著者自身が進めている、「ケミレスタウン・プロジェクト」という環境を改善して、将来起こる可能性のある病気を事前に食い止める活動も興味深い。

 本書を手にすることによって、へその緒からわかる事実を理解し、読者自身が身の回りから環境汚染の原因を少しでも減らすために、一歩踏み出してくれることが、期待される。

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