レポート

科学のおすすめ本ー iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか

2008.06.04

推薦者/サイエンスポータル編集長

iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか
 ISBN: 978-4-534-04384-9
 定 価: 1,500円+税
 編 著: 田中幹人 氏
 発 行: 日本実業出版社
 頁: 251頁
 出版日: 2008年6月1日

 昨年11月、山中伸弥・京都大学教授によるヒトiPS細胞開発のニュースは大きな衝撃を与えた。内外の反応は、最近の日本の科学界では例がないものと言える。以来、半年あまりの間に起きためまぐるしい動きを詳細に伝えるだけでなく、実際に再生医療に結びつくまでに予想されるさまざまな問題にも幅広く目を向けた内容となっている。

 なぜ、このようなユニークな研究成果が生まれたか、についても興味深い話が多々、盛り込まれている。山中教授の研究がスタートできたのは、科学技術振興事業団(現・科学技術振興機構)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST))「免疫難病・感染症等の先進医療技術」研究領域における研究課題の一つに採用されたことによる。この研究領域の研究総括は岸本忠三・大阪大学教授。「最初から目先の役に立つものをということを考えるべきではない」という考え方の人物に当たったという幸運が、研究費獲得−世界に類のない研究成果につながったことも紹介されている。

 再生医療につながるまでには、何段階もの越えなければならない壁があること。さらにiPS細胞も、ヒトES細胞研究でさんざん議論されてきたのと同様な倫理的問題と無縁ではないこと。さらには「基礎医学タダ乗り論」といった批判を海外から被りかねない日本の医療の現状などにも触れて、一筋縄ではいかない医療全般について考えさせるリポートにもなっている。

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