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本書は『21世紀のための科学リテラシー』(原題)の邦訳であり、21世紀を創造的に生きるために科学リテラシーが重要であることを喚起し、科学リテラシーを人々に定着させる様々な試みについて報告する論稿、23編を収録している。
ノーベル物理学賞の受賞者レオン・レーダーマンの名をご存知の方も多いだろう。著作『神がつくった究極の素粒子』(草思社)は日本でもよく読まれた。そのレーダーマンは、物理学者としてだけでなく、科学教育の分野でも活発に発言し精力的に実践活動を展開してきた。本書は、2002年に80歳を迎えたレーダーマンの、そうした面での功績に光をあてることも意図している。
23編の論稿は、「社会の中の科学リテラシー」「科学を楽しみ、味わう」「科学者の責任」「科学の様々な側面」「学校における新たな取り組み」の5カテゴリーに分類され、興味の赴くまま、どれから読み始めてもいいように編集されている。
たとえば、レーダーマンが中心になって創始したIMSA(イリノイ数学アカデミー)について詳細に紹介した論稿がある。数学と科学に秀でた高校生を対象とする全寮制の教育施設であるが、掲げる使命は「数学と科学と芸術と人文科学を融合させ、それを強めることの喜びを知っている倫理的なリーダーを育成し、ひいては数学と科学の教え方と学び方を変えること」だという。エリート校で、数学と科学に特化していると考えがちであるが、実際はかなり違うということがわかる。
また、近ごろ日本の大学でも盛んに取り入れられている「ティーチング・アシスタント」の制度は、ともすれば「形を変えた奨学金」として捉えられがちであるが、アメリカでは、「教えることを通して学ぶ」という、経験に裏づけられた哲学に基づいて導入されたこともうかがい知ることができる。
「音楽はプロの演奏家でなくても深く理解できると誰もが認めているのに、科学を理解できるのは研究者だけだとなぜ決めつけるのだろうか。」スティーヴン・ジェイ・グールドのこんな言葉も、われわれの「思いこみ」を打破する一助になるだろう。
科学リテラシーの確立に向けてアメリカの科学者たちは実に様々な活動を展開している。本書を通してその全体像を知ることは、日本の科学教育をよりよいものに変えていく上で、多くの示唆を与えてくれるに違いない。