レポート

英国大学事情—2008年3月号「大学の広報活動」

2008.03.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 英国の大学でも、広報活動には大きな力を入れている。今月号では、その中からバーミンガム大学、オックスフォード大学、インペリアル・コレッジにおける広報活動の事例を紹介する。

【1. バーミンガム大学コミュニケーション・オフィス 】

バーミンガム大学では、16名のスタッフが以下の業務に従事している。

A) コミュニケーション・オフィス

A-1) 業務

  • コミュニケーション戦略の立案
  • プレス・オフィス・チームによる週7日、24時間体制の提供
  • イベントチームおよびVIPとのリエーゾン
  • バーバー美術研究所(Barber Institute of Fine Arts)によるPRとマーケティング
  • メディア・センターによる、コミュニケーション・スキルの訓練
  • 大学メインビルディングのレセプショニスト
  • ウェブサイトによるコミュニケーション

A-2) スタッフ

  • コミュニケーション・ディレクター 1名
  • 戦略、大学の評判、業務関連担当 1名
  • プレス・オフィサー、分野別担当の4名
  • PR/マーケティング(バーバー美術研究所) 1名
  • イベント・マネージャー 1名
  • 「コーポレート・コンテンツ・オンライン」担当 1名
  • 「BBCとの戦略的連携」担当 1名
  • 月間学内誌「Buzz*1」担当 1名
  • メディア・センター担当、施設マネージャーとエンジンニアの2名
  • レセプショニスト 2名
  • オフィス・マネージャー 1名
  • プレス・オフィス・チームは週7日、24時間、ジャーナリストからの問い合わせに応じる体制を取っており、必要に応じて、メディアとの対応への訓練を受けた約400名の学内の専門家を紹介することができる。

B) メディア・センター

当センターでは、記者発表の原稿の書き方やメディアとのインタビューの受け方等、広範囲のメディアとの対応のための訓練を提供している。

【報道発表の訓練】

  • ニュース性を見極め、興味深い角度からアイデアを記事にする。
  • ジャーナリストへのアプローチ方法、記事に関する適切な人物をターゲットとする方法
  • 目を引く報道発表の方法
  • 悪い評判への対応
  • メディアとの持続性のある関係の構築
  • PR戦略等

 これらの訓練は、TVカメラや照明装置等のTVスタジオ機能を備えたメディア・センターにて行われる。訓練は学外者にも提供され、1コース最大6名で、1名当たりの費用は、昼食や教材を含め250ポンド(53,000円*2)である。

 このほか、メディアとのインタビューに対する訓練コースもあり、大手TV局Sky Newsのスタッフ等が訓練を受け持っている。費用は400ポンド(84,000円)で、この訓練の模様は、DVDにて参加者に配布される。

 Sky News社は、2003年にバーミンガム大学構内にTV スタジオを開設し、2名のニュース・コレスポンデントと1名のフリーランス・コレスポンデント、スポーツ・レポーター、その他3名のスタッフが常駐している。

 又、BBCも2005年に、バーミンガム大学との戦略的連携の一環として、同大学内にドラマ・ヴィレッジを開設し、多くのBBC のTVドラマが制作されている。

【2. オックスフォード大学・広報部(Public Affairs Directorate) 】

オックスフォード大学広報部のスタッフ数は29名で、以下の広範囲な活動を行っている。

【スタッフおよび活動内容】

  • 部長 1名
  • アシスタント 1名
    • プレス/インフォメーション・オフィス (計9名)
    • プレス・オフィス主任 1名
    • 同副主任       1名
    • プレス・オフィサー  4名
    • プレス・アシスタント 1名
    • インフォメーション・オフィサー 1名
    • プロモーション・オフィサー 1名
  • パブリケーション・オフィス (計8名)
    • パブリケーション主任 1名
    • パブリケーション・オフィサー 2名
    • アシスタント・パブリケーション・オフィサー兼デザイナー 1名
    • ウェブ・オフィサー 2名
    • アシスタント・ウェブ・オフィサー 1名
    • パブリケーション・アシスタント 1名
  • ニュースレター誌「ガゼット」 (計2名)
    • エディター 1名
    • アシスタント・エディター 1名
  • 同窓会誌「Oxford Toady」 (計2名)
    • エディター 1名
    • アシスタント 1名
  • イベント・オフィス (計2名)
    • オフィス主任 1名
    • イベント・オフィサー 1名
  • メディア・プロダクション・ユニット (計4名)
    • プロダクション主任 1名
    • プロヂューサー 1名
    • エディター 1名
    • コーディネーター 1名
  • 同部では、映画製作会社やコマーシャル制作会社に大学構内にての撮影協力活動も行っている。

【3. インペリアル・コレッジ・プレスオフィス 】

インペリアル・コレッジのプレス・オフィスは合計27名のスタッフにて、以下の活動を行っており、上記のバーミンガムやオックスフォード大学同様に、通常の業務時間外でも24時間中、交代制でプレス担当者が対応できる体制をとっている。

【スタッフおよび活動内容】

  • 部長 1名
    • アシスタント 1名
  • メディア・リレーション (6名)
    • メディア・リレーション・マネージャー 1名
    • シニア・プレス・オフィサー 1名(医学担当)
    • プレス・オフィサー 3名(自然科学、高等教育、工学の各担当)
    • プレス/PRマネージャー 1名
  • ウェブ (2名)
    • ニュー・メディア・マネージャー 1名
    • ウェブ・エディター 1名
  • 学内コミュニケーション (2名)
    • インターナル・コミュニケーション・マネージャー 1名
    • スタッフ・ライター 1名
  • 編集・印刷 (4名)
    • マネージング・エディター 1名
    • アート・ディレクター 1名
    • パブリケーション・オフィサー 2名
  • コミュニケーション・プロジェクト (3名)
    • 主任 1名
    • 創立100年関連コミュニケーション・コーディネーター 1名
    • 同アシスタント 1名
  • イベント・オフィス (3名)
    • イベント・マネージャー 1名(工学担当)
    • マーケティング/イベント・オフィサー1名(自然科学、ビジネス・スクール担当)
    • 祝典/イベント・オフィサー 1名(医学、祝典担当)
  • メディア・サービス (2名)
    • マネージャー 1名
    • 副マネージャー 1名
  • コミュニケーション部 (2名)
    • 部長 1名
    • アシスタント 1名
  • インペリアル・イノベーション社3 (2名)
    マーケティング・オフィサー 2名 (当社はインペリアル・コレッジのTLO会社であり、2006年、ロンドン証券取引所に上場した。)
  • Wye キャンパス4 (1名)
    • プレス/PRオフィサー 1名
    • (インペリアル・コレッジのメイン・キャンパスは、ロンドン中心地のケンジントンにある。この他にケント大学と協定を結び、ロンドン南部に位置するケント州のWyeにあるケント大学の施設にて、「Applied Business Management」の学士課程及び大学院課程を提供しており、卒業時にはケント大学の学位と「Imperial Associateship of Wye College」の両方の学位が与えられる。)

【4. 筆者コメント 】

 バーミンガム大学プレス・オフィスのウェブサイトには、報道関係者のために、コミュニケーション・ディレクターをはじめ6名の担当スタッフの写真、電話番号、Eメールアドレスが掲載されている。

 また、同大学では卒業生向けのサービスの一環として、卒業生がお互いに情報交換等ができるように、同窓生Eメール・ディレクトリー(Alumni Email Directory)サービスを提供している。同窓生にコンタクトしたい場合は、同大学が仲介役となり、相手が同意した場合に限って、メールアドレスや住所等の提供をするサービス「Postbox Service*5」も行っており、卒業生への広報活動も活発である。

 英国の大学の広報活動は、上記に紹介した主要大学だけに留まらない。筆者は、英国の約120の大学のランキングでボトムに近い、ある大学の広報部を調べてみたが、5名の広報スタッフで、24時間体制(交代制)でプレスを中心とした外部からの問い合わせに応じている。英国のほとんどの大学が広報活動に力を入れていることがうかがえる。

 大学の広報活動は大学の宣伝というよりは、大学の活動を広く社会に発信する、社会との連携活動の一環として、また社会の支援を得るための重要な活動として捉えられるべきで、今後、日本の大学でも広報活動の更なる充実が必要となろう。

注釈)

  • *1 月間学内誌「Buzz」 : 2001年より毎月発行されている、大学ニュースレター
    http://www2.bham.ac.uk/page.asp?section=00010001000100100006
  • *2 ポンド : 当レポートでは、1ポンドを210円にて換算した。
  • *3 インペリアル・イノベーション社 : http://www.imperialinnovations.co.uk/
  • *4 Wye キャンパス : http://www.imperial.ac.uk/wyecampus/teaching/index.htm
  • *5 Postbox Service : http://www.alumniarchive.bham.ac.uk/postbox.htm

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