レポート

科学のおすすめ本ー 科学を志す人びとへ 〜不正を起こさないために〜

2007.12.03

立花浩司氏 / 推薦者/NPO法人サイエンス・コミュニケーション・会員

科学を志す人びとへ 〜不正を起こさないために〜
 ISBN: ISBN978-4-7598-1139-7
 定 価: 本体1,800円+税
 編著者: 科学倫理検討委員会
 発 行: (株)化学同人
 頁: 152頁
 出版日: 2007年10月20日

 日本学術会議は、研究の不正行為が相次いで明るみになった事態を受けて、昨年10月に声明「科学者の行動規範について」を策定、公表した。本書はこの「科学者の行動規範について」ができるまでの経緯をわかりやすくまとめたものである。さらに、研究不正の問題の本質、そもそも科学とは何なのか、研究をどのように評価するのか、科学コミュニケーションをどのようにとらえるべきか、科学者の倫理とは、さらに研究不正の実例からどのように対応していけばよいのかというところまで、丁寧に解説を加えた実用書として編まれている。

 序文を読むと、東大の浅島誠さんを代表とする執筆者グループは、本書の読者対象を「若い研究者およびこれから研究者になろうとする若者たち」と考えていることがわかる。内容は非常に基本的なものだといえるし、第三者が読んでも至極尤もなことが書かれている。しかし、翻って考えてみるとどうだろう。「科学者」と書かれている部分を「企業人」と読み替えてみると、話はわかりやすいかも知れない。社会常識として、会社なら上司から部下に、あるいは先輩から後輩にOJT(On the Job Training;職場での仕事を通じたトレーニング)されるべき事柄を、わざわざ逐一一冊の本にしなければならないほど、科学者のリテラシーは低いのか、ということだ。そもそも、研究倫理やコミュニケーションなんて、本から学ぶと言うよりも、人から実地で学ぶものなのではないかと思っていたからだ。

 本書の内容から透けて見えてくるのは、少なくとも昨今の中堅の研究者が若手研究者の教育・育成をあまりに軽視しているのではないだろうかということ。本書で実例として挙げられていた、実験ノートをつける必要性の話など、何でここまで書かなければならないのかとは思いつつ、この数年に実際に起こった研究不正の事例を思うと、読んでいて「痛さ」を感じてしまう。また、科学コミュニケーションを他人事と考えている科学者が多いことは私自身が肌身で感じており、第3章の「社会における科学の位置」は丁寧に書かざるを得なかったのだろうと推察される。

 ともあれ、嘆いたところで話は始まらない。本書が多くのこれから科学を志す若い研究者に読まれ、あわよくばシニアの研究者にも広く読まれることを期待したい。自分に謙虚でかつ、社会から信頼を寄せられる研究者コミュニティが真に求められているということを、自分のこととして捉える人がひとりでも増えれば、学術会議の執筆者グループが手間をかけて上梓しただけの甲斐があるというものだ。

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