レポート

英国大学事情—2007年11月号「第6次産学・コミュニティー連携活動調査」

2007.11.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2007年7月、「第6次英国高等教育機関の産学・コミュニティー連携調査」結果がイングランド高等教育助成会議(HEFCE)によって公表された。

今回は高等教育機関の負担を軽減するために、2004−05年度および2005−06年度アカデミック・イヤーの2年分のアンケート調査を同時に行い、158の英国の高等教育機関からデータを集計したものである。当調査報告書は40ページ近いものであるため、その中から筆者が特に興味深いと思う項目のみを抜粋して紹介する。

 

【1. 概要 】
  • 2005-06年度においては、研究関連の収入(共同研究および契約研究を含む)は2003-04年比11.4%増加し、12億ポンド(2,880億円*1)となった。
  • 2003-04年以来、新規発明の開示は着実に増加しているが、特許出願と新規の特許許可数は2004-05年にピークをつけている。
  • 現在、高等教育機関が所有する有効特許は9,000件以上あるが、その半数以上は海外における知的所有権も保護している。
  • 2005-06年度において、企業は高等教育機関の知的所有権を活用するために、約1,400件のライセンスを取得した。(2003-04年度は約1,000件)
  • 2005-06年度において、高等教育機関は187社のスピンオフ企業を設立し、スピンオフ企業の設立数は上昇傾向を示している。
  • 1990年代後半には、スピンオフ企業の相対的な質およびそのインパクトについての議論もあったが、最新のデータでは設立数の増加のみならず、設立後3年以上存続しているスピンオフ企業は、2003-04年度の625社から2005-06年度には746社と増加している。
  • 現在、スピンオフ企業全体の従業員雇用数は16,000名以上、年商の合計は5億ポンド(1,200億円)を超える。
  • 2005-06年度においては、200万人以上が高等教育機関による公開レクチャーに参加した。又、高等教育機関は博物館、美術館及び関連教育活動に延べ3万日を使っている。

 

【2. 産学・コミュニティー連携活動による総収入 】

2005‐06年度に英国の高等教育機関が産学・コミュニティー連携活動から得た総収入は、22億5,000万ポンド(5,400億円)に達した。

  • *CPD:継続的専門教育開発(Continual Professional Development)
  • SMEs:中小企業(Small and Medium Enterprises)

 

【3. パートナーの形態別の収入(2005−06年度、共同研究含まず) 】

 

【4. 経済発展への貢献において最も重要と考える3項目 】
活動 2003-04 2005-06
教育へのアクセス 59% 62%
産業界との共同研究 37% 36%
技術移転 34% 36%
地域が必要とする技能への対応 35% 36%
中小企業支援 30% 29%
国が必要とする技能への対応 27% 28%
卒業生の地域への定着 16% 19%
地域とのパートナーシップ推進 19% 18%
地域外の学生の誘致 16% 14%
地域発展のためのサポート 13% 12%
地域への外部投資の促進 5% 4%
スピンオフ会社の活動 4% 4%
マネージメント・ディベロップメント 2% 3%
地域経済の戦略的分析 1% 1%

 

【5. 産学連携・社会貢献活動のための専従スタッフ数(フルタイム換算) 】

 

【6. 産学連携・社会貢献活動に直接関わるアカデミック・スタッフの比率(フルタイム換算) 】

 

【7. イノベーションへのインフラを備えている高等教育機関 】
  • *Indemnity insurance:損害賠償保険

 

【8. ライセンス活動機能を備えた高等教育機関 】

 

【9. コンサルタント活動の形態 】

 

【10. 契約研究収入 】

 

【11. コンサルタント収入 】

 

【12. 発明開示数 】

 

【13. ライセンス認可件数 】

 

【14. 知的所有権関連活動からの総収入と費用 】
  • *数年前の収入は落ち込んでいるが、それ以前の数字が過大報告された可能性がある。

 

【15. 形態別の知的所有権関連収入 】
  • *スピンオフ企業の株式売却は通常、研究開始から10-15年、会社設立から5−10年ほかかるが、高等教育機関にとっては特に利益をもたらす活動である。

 

【16. アカデミック・スタッフの社会、文化活動への取り組み(2005-06年度) 】

 

【17. 継続的専門能力開発(CDP)コースと継続教育(CE)からの収入(2005-06年度) 】
  • 2005-06年度には、継続的専門能力開発コースと継続教育から4億ポンド(1,000億円)以上の収入があり、前年比7%増となった。

 

【18. 英米の大学の商業化活動の比較(2005-06年度) 】
  英国の大学(調査に参画した機関のみ) 英国の大学(HE-BI調査)
高等教育機関数 152 158
研究支出の合計(端子:百万ポンド) 20,156 4,149
IP関連収入(スピノf企業の株式売却を含む。単位:百万ポンド) 388 58
総研究支出に対するIP関連収入の比率 2.8% 1.4%
スピンオフ会社設立数 404 187
スプンオフ会社、一社当たりの研究支出(単位:百万ポンド) 50 22
  • (米国データ:AUTM Licensing Survey 2005-06)
  • (英国データ:HESA FSR 2005-06,HE-BCI Survey 2005・06)

 

【19. 筆者コメント 】

2005‐06年度に、英国の高等教育機関が産学・コミュニティー連携活動から得た総収入は約5,400億円であるが、そのうち継続的専門能力開発コースと継続教育からの収入が1,000億以上あるのは注目されよう。

又、設立後3年以上存続しているスピンオフ企業が2005−06年度には746社と増加傾向にあり、スピンオフ企業の株式売却益も最近では年40-50億円近く出始めている。英国の産学・コミュニティー連携活動は着実に進展しているように思われる。

 

用語説明

  • *1 ポンド : 当レポートでは、1ポンドをすべて240円にて換算した。

ページトップへ