レポート

-What's on ~インタープリターU.K.訪問記~-大人のためのサイエンスショー!?

2007.04.19

小川ちひろ 氏 / 日本科学未来館

 このコーナーは、日本科学未来館のインタープリターが、ブリティッシュ・カウンシルの支援(*)でイギリス(U.K.)を訪れたときの体験談をご紹介しています。「サイエンス」や「コミュニケーション」をキーワードとする出会いや発見を、インタープリター自身が5回シリーズでレポートしました。

※日本科学未来館インタープリター:日本科学未来館の展示フロアで来館者と対話し、科学をわかりやすく伝え、ともに考える展示解説員としての役割を担うとともに、先端科学技術の動向のリサーチや、館内外での科学にかかわるさまざまなイベントの企画を行っています。また、展示フロアで日々接する来館者やイベント参加者との対話をもとに、科学技術に対する社会の評価や意見を研究者にフィードバックする役割も果たしています。

小川ちひろ 氏
小川ちひろ 氏

 「”Punk Science”というサイエンスショーが滞在期間中に開催されるので、参加してみてはどうか。」とブリティッシュ・カウンシルより、強く薦められた。“Punk Science”と聞いて私は正直イメージが全くわかなかった。会場となるDana Centreのホームページでプログラムを調べたところ、「実験、ブラックホール、シュレディンガーの猫(量子論の有名なたとえ話)」といかにも科学的な用語が並んでいる。一方で、「コメディー、音楽」という言葉も見られた。パンクなサイエンス?全く想像が出来なかったが興味は広がり、とにかく参加することとした。

会場となったDana Centreの外観。スタイリッシュなデザインが印象的だった。
会場となったDana Centreの外観。スタイリッシュなデザインが印象的だった。
Dana Centreのイベント情報が掲載されているパンフレット
Dana Centreのイベント情報が掲載されているパンフレット

 会場のDana Centreは、ロンドンを代表する科学館であるLondon Science Museumが『大人が科学に触れる場所』として設立した施設である。社会的でスタイリッシュ、最新科学ネタやSexに関する話題などを取り上げ、会社帰りの社会人が気軽に参加できるように平日の夜にトークショーやイベントなどを開催している。参加者は大人限定、お酒や軽食を片手に気軽に参加できるところだ。

 例の”Punk Science”に参加してみると、ライブでも始まるかのような大音量の音楽が流れるオープニングのなか、TシャツにGパンというラフな服装のハイテンションな2人組DanとJohnが登場し、何がはじまるのだろう?ととにかく鼓動が速くなる。2人の会話はまるでコメディーのようにテンポ良く、「質問が届いています」という設定で、届けられた疑問におもしろおかしく答えていく。例えば、「鳥はどうして飛べるの?」確かに誰しも一度は不思議に思ったことだろう。すると彼らは参加者からボランティアを募り、心優しいボランティアの両腕をいきなりテープでぐるぐる巻き(!)にしたかと思うと、「(ボランティアに向かって)鳥みたいに飛んでみて。」と一言。ボランティアが動かない腕を必死でパタパタと動かすと、「(全体に向かって)このようにはじめは鳥も羽が短く飛べませんでした。」と説明をする。会場全体が笑いに包まれる。まるでコメディーを見ているようでとにかく面白いのである。

部屋の巨大スクリーンに映し出される”Punk Science”のオープニングの様子
部屋の巨大スクリーンに映し出される”Punk Science”のオープニングの様子
“Punk Science”のショー 会場の様子
“Punk Science”のショー 会場の様子

 続いて、「人間を冷凍保存すると、未来で生き返らせることができるか?」という質問に対しては液体窒素を取り出し、何をするかと思いきや、なんとDanの“大事な部分”を冷やし始めたのだ。さらにその瞬間凍結されたDanの“大事な部分”をJohnがハンマーで思いっきり叩き始めたのだ。Danの叫び声が響く中、会場はまたしても笑いの渦となる。初めは言葉を失い目を疑ったが、よく見ると実際はソーセージでその“大事な部分”を代用していたのだ。結局この質問に対する回答がどう話されていたのか、驚きのあまり分からなかったが、会場全体がこのようなDanの悲劇(喜劇?)を起こした液体窒素に興味を持っていたことは明らかだった。まさに夜の大人のためのサイエンスショーという印象であった。

“Punk Science”のショー 液体窒素で冷やされたのは...(撮影は同行者)
“Punk Science”のショー 液体窒素で冷やされたのは...(撮影は同行者)

 このようなショーを行うDanとJohnは一体何者か、と疑問を感じイベント終了後にインタビューを試みた。彼らは自らをPunk Scientistと名乗り(この肩書きが名刺に記載されている!)、London Science Museumの解説員(Explainer)出身で科学知識をしっかり身につけている人たちであった。さらに驚くべきことに、Punk Scientistとしての活動と並行して、俳優やコメディアン、サイエンスライターとしても活躍している実に魅力あふれる人たちなのである。

 彼らのイベント情報は雑誌のコメディー欄に掲載されており、パブや映画館などにもパンフレットが置いてあるとのことだった。それ故、今回参加したイベントにも実に様々な人が集まっていた。

 “Punk Science”のショーを見た後に科学に“深く”興味を持つ人がどれほどいるかはさて置き、その場にいたすべての人がその夜、科学用語を耳にし、液体窒素を目にし、さらに楽しい時間を過ごすことができたのは確かである。私だけでなく、大きくうなずき高らかに笑う周りの英国人がそれを証明していた。Dana Centreが科学と社会の間に架かる新しい場所となっていると強く感じると共に、このような見せ方も科学コミュニケーションとして効果的に利用できることを実感した。

 気軽に、お酒片手に、思いっきり笑い、しかも科学ネタを聞く、こんなにお得なイベントなら、友人を連れて毎晩でも通いたい。

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