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高性能電池は“お好み焼き”!? 「匠の技」が決め手になる―東京大学准教授 長藤圭介氏

2021.12.13

長藤圭介 氏
長藤圭介 氏

 「電池」と聞いて、身近に思わない人はいないだろう。スマホにコンセントを1時間つなげば1日使える。強力な掃除機も充電スタンドから外して10分は動き続ける。当たり前のように使っている電池だが、どこにどんなものが入っているのか想像する人は少ないと思う。ましてや、どのようにつくられているかを考える人も。実は、そのつくり方は「お好み焼き」と同じなのだ。世界の競争が激しくなっている今、日本が得意とする「匠の技」が高性能の電池開発の決め手になるだろう。

電池が使用されている製品の例
電池が使用されている製品の例

つくり方は同じ

電池とお好み焼き
電池とお好み焼き

 まず、少しだけ電池の原理を説明しておこう。電池の機能は、外からの電気でイオンの偏りを作って(充電)、その偏りがなくなるときに電気を流す(放電)、この2つ。このような現象を、目に見えない大きさの「粉」の中で起こしている。なるべくたくさんの電気を貯めるためには、この粉をうまく配置させないといけない。では、どう配置させるのか。粉を一度水に分散させて塗って乾かす。そう、ずばり「電池のつくり方はお好み焼きのそれと同じ」なのである。

 お好み焼きを自分で作ったことのある人は多いだろう。小麦粉を「適量の水」に溶かして、「具」を加え、「適温」の鉄板で、「適当な時間」で焼く。さあ、このレシピを読んだだけで、はじめての人がうまく作れるだろうか?おそらくNOだ。溶かし方、具の種類、鉄板の熱さ、室温、さまざまな不確定要因が関係することは明らかだ。しかし、人は経験を積むとなぜかうまく作れるようになる。「具」を少々アレンジしても、焼き加減をチェックしながらレシピもアレンジしてうまく焼く。この積み上げる経験こそが電池をつくるのに必要な匠の技なのだ。

良い材料とプロセスを見つける

 もう少し、電池の原理を、2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士の実績で紹介しよう。吉野博士は「リチウムイオン二次電池の開発」に対して授与された。二次電池とは、充電ができる電池という意味だ。リチウムは、水素・ヘリウムの次に小さい原子で、大容量化・軽量化に有利だ。吉野博士は、そのリチウムを行ったり来たりさせるのに適した材料の組み合わせを考案した。たとえば負極と呼ばれる電極膜に用いたのが炭素だ。鉛筆の芯が粉状になったものを想像してもらうと良い。さらにその炭素の粉をうまく配置させるための塗布方法などのプロセスの改良が加えられ、現在これなくしては生活できないリチウムイオン電池が出来上がった。

 匠の技でリチウム電池をつくり上げたすごさは、「良い材料」を見つけたことだけでなく「良いプロセス」を見つけたことなのだ。お好み焼きも、どんなに風味の良い小麦粉があっても、それに合った作り方をしないとふわふわで噛み応えのあるものはできない。それと同じで、電池も、どんなにイオンを通しやすい材料が見つかっても、適度なスキマを実現できるプロセスがないといけない。逆に「プロセスにしやすい材料」を見つけることも必要だ。「炭素の粉を塗る」と言うは易し。炭素を見つけることと粉を塗る方法を見つけることは同時進行になる。繰り返しだが、お好み焼きのレシピを作るのと同じくらい経験とコツが必要なのだ。

製品の機能は材料とプロセスの両方で実現する
製品の機能は材料とプロセスの両方で実現する

量産機械向けのレシピが必要

 実は、電池のような工業製品の生産プロセスの条件も「レシピ」と言う。今あなたが読んでいる画面のスマホやパソコンに入っている電池は、人が手作業で作っているわけではなく、量産機械が作る。しかし、最初のレシピは人がつくる。すなわち、どんな材料を使ってどんなプロセスで作れば、高効率な電池になるのかを試行錯誤で探索する。そう、どんな小麦粉を使ってどんなプロセスで作ればお好み焼きが美味しくなるのか、シェフが最初の試作品を作るように。

 粉のプロセスをもう少し詳しく見ていこう。もう一度、お好み焼きを想像してほしい。小麦粉を水に溶かして生地を作り、具を混ぜ、鉄板に塗布し、焼く。電池の成膜では、材料の粉を水に分散させ、混錬、基板に塗布し、乾燥させ焼結させる。この4工程が基本なのだ。プロセスレシピの例は、水との混合割合、混ぜ方、塗り方、焼く温度と時間。これらを間違えると、ほしい機能が出せない。お好み焼きも、生焼け、パサパサ、焦げ、は避けたいし、材料の風味を生かしながら、ふわふわかつ噛み応えを出したい。挙げたレシピはほんの一部で、量産機械で安定して作るには「粉の気持ち」になって、物理現象を再現できるレシピが必要で、ここが電池研究者の腕の見せ所だ。

材料とプロセスの詳細
材料とプロセスの詳細

海外とは違ったやり方で

 ここまでで、電池のつくり方の基本、お好み焼き同様に匠の技でレシピの開発が必要であること、だからこれまで日本の強みであったことがお分かりになっただろうか。ただし、この強みはこのまま続かない。なぜなら、海外がロボット技術とAI(人工知能)技術を積極的に利用しようとしているからである。膨大な候補の中から効率的にレシピを創り出すDX(デジタルトランスフォーメーション)研究が主流になりつつある。ではどうすれば良いのか。それはお察しのとおり、ロボットとAI、すなわち「インフォマティクス(情報科学)」を「取り入れる」ことである。それも、海外の「利用」とは違ったやり方で。

 将棋AIは何億手も計算して最も勝率の高い手を示してくれる。だが、勝手に実験し、考え、最適なレシピを出してくれる汎用AIシステムはまだ存在しない。美味しいお好み焼きと同じように、すべてのルールをコンピューターに記述できないのだ。すなわちルールの数が無限、新しい材料の候補ができるたびに、チェス・囲碁・将棋といったゲームの種類が変わる。極めつけに、実際の装置が様々で、どんなにロボット化しても、手あたり次第に試してみる時間もない。だから、人とAIとロボットの協働が重要で、だからこそ日本の勘とコツ、そして経験という強みを生かすことができるのだ。

膨大な候補の中から効率的にレシピを創り出すDX研究が主流に
膨大な候補の中から効率的にレシピを創り出すDX研究が主流に

人×AI×ロボット共進化型研究を志向

 私はもともと、粉を調合して塗って膜にする、お好み焼きのシェフがやるような研究をしてきた。一方で、ものづくりの生産現場ではロボットでの自動作業は当たり前である。AIの浸透も自然なことだ。

 だが、私は研究そのものにAIやロボットを「取り入れる」のにはまだ少し抵抗がある。これはもしかしたら勘・コツ・経験を持った研究者ほどますます強いかもしれない。それと同時に、劇的に加速する海外勢のAI・ロボット活用を目の当たりにして、危機感も抱いている。

 私は今、日本流の次世代のプロセス開発法として「プロセス・インフォマティクス」を実践し、啓蒙する活動をしている。「人が創出するヒラメキ」を元に、「ロボットが高効率に試す」、「得られるデータをAIが解析し結果を抽出する」、「その結果から研究者が新たなメカニズムを知識化する」。この4つの工程のループを回す新たな研究開発法、いわば「人×AI×ロボット共進化型研究」を志向し、日本の強みを生かした電池産業を飛躍的に伸ばすことでお役に立ちたい。

長藤圭介(ながとう・けいすけ)

1981年、広島生まれ。2004年、東京大学工学部機械工学科卒、2016年から現職。レーザ加工、3Dプリンターなどのものづくり研究、燃料電池などの粉体応用研究、さらに次世代研究方法論であるプロセス・インフォマティクス研究に従事する。座右の銘は、「好きこそ物の上手なれ」「先ず隗より始めよ」。

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