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テクノフロントー 第16回「シリーズ:海洋エネルギー〈1〉『海流・潮流発電の実用化に向けて』」(経塚雄策 氏 / 九州大学大学院 総合理工学研究院 教授)

2013.05.15

経塚雄策 氏 / 九州大学大学院 総合理工学研究院 教授

九州大学大学院 総合理工学研究院 教授 経塚雄策 氏
経塚雄策 氏

1. はじめに

 海流は、主に海面上を吹く風によって発生する流れであり、地球の自転の影響によって大洋の西側で流れが強化される。北太平洋では黒潮、北大西洋ではメキシコ湾流など大洋の西側で強い定常的な流れが発生する。黒潮の流速は速いところでは2m/s以上に達し、その強い流れは幅100km以上にも及び、輸送する水の量は毎秒5,000万トンにも達するとされている。この膨大なエネルギーの一部でも利用して発電できれば、安定したエネルギー源となることは想像に難くない。

 一方、潮流は太陽、地球、月などの天体運動による潮汐力によって発生する海の流れである。地球の自転に伴って1日2回の干満、また、15日周期の大潮、小潮によって変動する流れであるが、海岸地形や水深などにも強く依存する。しかし、潮流の変動は規則正しく起こるので長期にわたって予測可能であり、信頼性の高いエネルギー源とみなすことができる。

 我が国は、排他的経済水域(EEZ)の広さでは世界第6位であり、海流・潮流エネルギーにも恵まれている。今後、これらのエネルギー資源の利用はクリーンエネルギーであることに加え、エネルギーセキュリティの観点からも重要であると思われる。

2. 流体の発電パワー

 流体の運動エネルギーから得られる発電パワーの理論式は次式で与えられる。

…(1)
ただし、Ρ:海水密度、Α:タービン面積、U:流速、ηr:タービン効率(=0.3-0.4程度)

 この式は風力発電と同じであるが、海水の密度は空気の約800倍なので、流速は小さくても大きなパワーが得られることになる。流速は、黒潮についてはほぼ一定値とおけるが、潮流については時間とともに変化するので発電量も時間によって変化する。潮流の流速を単純化して

…(2)

 ただし、T:周期(通常は12時間25分)で考えると、
平均発電量は

…(3)

 のように計算できる。

3. 海流発電装置

 黒潮の規模は、流量が3,000-5,000万m3/s、流速は1-5ノット(0.5-2.5m/s)であり、平均流速を0.5m/s、流路幅を250km、水深1,000mとおいて黒潮のパワーを計算すると、約1,600万kwとなる。もっと詳細には、独立行政法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)が2001年から運用している数値海洋モデルJCOPE21)が利用できる。図1は、JCOPE2による水面下5mにおける流速データから5年間の平均流速値を求めたものである。この図から、平均流速が1m/sよりも大きいのは、四国から紀伊半島にかけてと、沖縄と奄美大島西方の東シナ海であることが分かる。NEDOの報告書2)によれば、黒潮による発電ポテンシャルが大きいのは紀伊半島沖であって、沖合固定型かつ離岸距離30km以内の海域の発電ポテンシャルは9Twh/年、沖合係留で離岸距離100kmまでの場合には45Twh/年である。日本の総電力量は約1000Twh/年であるので、単純計算ではあるが、“黒潮発電”によってその約1-4.5%の電力が賄えることになる。

JCOPEによる5年間平均流速分布(水面下5m)
図1. JCOPEによる5年間平均流速分布(水面下5m)

 黒潮は、ほぼ定常流と考えても良いので安定した発電が行えることが最大の利点である。そのため、過去にもいくつかの発電装置が考案されたが、実海域での実験まで至った例はない。最近になって、実用化を目指した研究開発が進行中である。

 図2は、11年度のNEDOプロジェクトで採択されたもので、IHI、東芝、東京大学などのグループによる海洋中層における浮遊式黒潮発電装置3)のCGである。この装置は、1対のプロペラ式タービンによってトルクバランスをとり、タービンを繋ぐ水中翼の浮力および揚力と係留索のつり合いによって深度制御が可能となっている。また、図3は、沖縄科学技術大学院大学で実施中のシーホース・プロジェクト4)のCGであり、2012年にタービン直径約2mの模型を用いた実海域実験が行われた。

東芝、東大などによる海流発電システム(CG)
図2. 東芝、東大などによる海流発電システム(CG)
図3. 沖縄科学技術大学の黒潮発電システム(CG)
図3. 沖縄科学技術大学の黒潮発電システム(CG)

4. 潮流発電装置

 潮流発電装置は、海中に設置されるため現時点でも多くの形式、タイプの装置が提案されている段階である。水車の形式としては、揚力型、抗力型、混合型があり、タイプとしては水平軸、鉛直軸、振動形などがある。それらの有力なものは現在、実海域での実証実験中であり、発電効率とともに、長期の安定性、メンテナンスの容易さなどによって淘汰されるものと思われる。また、潮流は海域によって水深、流速、流向、乱れなども違うので、最適な水車も海域ごとに異なることが予想される。

 ここでは、現在、実海域実験を行っている装置をいくつか紹介しよう。

4.1 海外の潮流発電装置

 「Hammerfest Strom」社5)は03年から09年までにノルウェーの最北端ハンメルフェスト近くのクバルサンド海峡において、図4のような海底設置形の3翼プロペラ式の300kWの潮流発電装置で実海域実験を行ってきた。「HS300」のプロペラ直径は20mで、潮流の向きに応じてプロペラピッチが可変となっている。最大流速2.5m/sの潮流中で、平均出力は80kWであり、03年9月に世界で初めて地元の電力網に接続された。この後継機で、実用直前機として直径30m、出力1MWの「HS1000」がある。「HS1000」は11年12月にスコットランドにある「欧州海洋エネルギーセンター」(EMEC)に設置され、実海域試験を行った。なお、「Hammerfest Strom」社は12年4月に「ANDRITZ HYDRO Hammerfest」社となったが、12年末に「Scottish Power Renewable」社が欧州委員会から受注したIslay(アイラ)海峡における20.7Mャ (約23億円)の10MWの潮流発電プロジェクトで採用された。今後、13年から15年にかけてIslay海峡に10基の「HS1000」を設置して、世界初となる「潮流発電ファーム」を構築する予定である。

Andritz Hydro HammerfestのHS1000
図4. Andritz Hydro HammerfestのHS1000

 イギリスの「Marine Current Turbines」社6)は、図5のように海中に支柱を立てて、稼動中は水中に、メンテナンス時には空中に出るような昇降機能を備えたプロペラ式潮流発電装置の開発を行ってきた。1999年から2006年までSeaflow Projectを実施し、03年5月にイギリス海峡のPlymouthにおいて直径11mの2翼プロペラ式発電機を設置し、最大300kWの実証実験に成功した。このプロジェクトは、Phase-ⅡのSeaGen Projectに引き継がれ、ツインローター方式で2機のプロペラ式水車により08年5月に1.2MWの発電に成功した。SeaGen Projectでは、水深30mほどの海域においてプロペラ直径を18mとした装置が用いられている。なお、同社も12年4月に「SIEMENS」社に買収されて今は「Siemens Ocean & Hydro Bussiness」社の一部となっている。12年末に欧州委員会からKyle Rhea Tidal Turbine Array Projectとして採択され、18.4Mャ (約21億円)を得た。計画では、2MWの装置を4基設置するとのことである。

MCTのSeaGenプロジェクトの潮流発電システム(CG)
図5. MCTのSeaGenプロジェクトの潮流発電システム(CG)

 図6は「OpenHydro」7)という潮流発電装置で、ジェット機のエンジンのように多翼ローターで構成され、その中央部が空いている。ローター先端に取り付けられた永久磁石とそれを包むダクトに内蔵されたステーターによって発電する、水車と発電機一体型の装置である。ローターの中心の穴は、周囲の流れが減速しないためと、魚の逃げ道となるように工夫している。英国およびアイルランドからの研究助成を得て、EMECでの実験を行った。さらに、09年11月にカナダの「Nova Scotia Power」社と「OpenHydro」社は、1MWの実用機をファンディー湾に設置して実証実験を行っており、実用化に近い装置の一つとみなされている。

OpenHydroの海底設置状況(CG)
図6. OpenHydroの海底設置状況(CG)

 韓国も、潮流発電を国策として推進しているトップランナーの一国である。韓国南西部はリアス式海岸であり、黄海の大きな干満差によって潮流発電に適した海峡がいくつもある。「韓国海洋開発研究所」(KORDI)は、01年から韓国南西部の珍島と本土の間にあるUldolmok海峡で潮流発電の研究開発を行ってきた。そこは最大流速が13ノット(6.5m/s)であり、潮流発電の最適地の一つである。図7は、そこで実施中の実験施設および内部に設置された「ヘリカル水車」8)の写真である。KORDIは08年5月に同海峡の中にジャケット構造物を設置し、その水面下に直径4mのヘリカル水車、水面上に発電機をおく装置で実験を行った。発電機は、同期型と非同期型の2種類でそれぞれ500kWの定格出力である。09年6月から発電実験を行っていたが、11年12月をもってphase-Ⅱの実験を終了した。現在、この装置を同海峡の4つの横断線上に複数機設置して、商業発電を計画中である。

韓国Uldolmok海峡における実証実験システム
図7. 韓国Uldolmok海峡における実証実験システム

4.2 日本の潮流発電装置

 我が国では、1983年から88年まで3期にわたって日本大学の木方靖二教授のグループが来島海峡(愛媛県)において潮流発電実験を行い、世界で初めて潮流発電に成功した。87年からの第3期で用いられた海底設置型発電装置9)(図8)では、ダリウス形水車の3翼は、軽量化のためにカーボンFRPによって製作され、3相同期発電機(AC200V、5kW)が用いられた。約年間の実験が行われ、発電効率は最大で0.55という非常に高い結果を得た。この成功事例により、我が国の複数プロジェクトにおいてダリウス形水車あるいはその変形水車が採用されている。

日大のダリウス形潮流発電装置(NU-3)
図8. 日大のダリウス形潮流発電装置(NU-3)

 図9は、北九州市と九州工業大学が関門海峡において実施中の潮流発電装置10)の陸上写真である。直径およびスパン長が1mのダリウス水車を2段に重ね、それと逆方向に回転する1対のダリウス水車を用いて、1台の相反転式発電機を回すものである。2012年3月から実験を行っている。

関門海峡における潮流発電システム
図9. 関門海峡における潮流発電システム

 図10は、川崎重工が11年10月に発表した潮流発電装置11)のCGである。直径18mの3翼プロペラ型で、ピッチとヨー・コントロールで定格出力1MWである。11年度のNEDOの公募(海洋エネルギー発電システム実証研究事業)に採択され、沖縄電力(株)などと沖縄海域で潮流発電の実証研究を行っている。また、13年からEMECでの実証試験を開始する予定であり、ベンチャー企業が多い中での重工大手の参入は国際的にも注目されている。

川崎重工の潮流発電装置(CG)
図10. 川崎重工の潮流発電装置(CG)

5. 実用化に向けての課題

 我が国の海流・潮流発電の研究開発は、欧米・韓国から約10年は遅れていると言わざるを得ないが、2013年4月に発表された「海洋基本計画」においては主要な取り組みとして「海洋再生可能エネルギーの利用促進」が明記された。つまり、今後は国策として推進することを決定したもので、海流・潮流発電についても強い「追い風」となろう。ただし、実用化に向けてはまだ多くの課題をクリアする必要がある。そのため「実証フィールドの整備」が必要であり、「海洋基本法」の中にも取り上げられている。これは、実用化するためには絶対必要な実海域実験を行うための海域を確保することで、スコットランドのEMECが手本となっている。13年度中に内閣府の総合海洋政策本部において決定される予定であるが、早期の設立が望まれる。また、現在のところ、海洋に関しては情報量が圧倒的に不足しているので、今後の海洋活動の展開を図るためには、海洋情報の拡充が必要である。数値モデルなども駆使して、高精度の海流・潮流マップの整備が求められる。

 さらには、我が国固有の海洋環境に適する発電システムとメンテナンス法の確立が、将来の永続的な運用には不可欠である。例えば、付着生物による発電装置への汚損については、海域の環境が大きな要因となるが、コスト評価や環境影響評価とも関係して、事前調査が重要となろう。なお、海流・潮流発電については、現行の電力の固定価格買い取り制度(FIT)の対象にはなっていないが、早期にFITの対象に加えて、事業化を促進することが望まれる。

※1 http://www.jamstec.go.jp/frcgc/jcope/htdocs/home.html
※2 NEDO:海洋エネルギーポテンシャルの把握に係る業務、平成22年度報告書、平成23年3月
※3 http://www.ihi.co.jp/ihi/press/2011/2011-11-28/index.html
※4 http://www.oist.jp/ja/news-center/photos/latest?page=2
※5 http://www.hammerfeststrom.com/
※6 http://www.marineturbines.com/
※7 http://www.openhydro.com/home.html
※8 Kwang Soo Lee, Ki-Dai Yum, Jin-Soon Park and Jung Woo Park:Tidal Current Power Development in Korea,EAS2009 Manila,2009.
※9 http://www.tech.cst.nihon-u.ac.jp/cstm/no8.html
※10 http://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/00200009.html
※11 http://www.khi.co.jp/news/detail/20111019_2.html

九州大学大学院 総合理工学研究院 教授 経塚雄策 氏
経塚雄策 氏
(きょうづか ゆうさく)

経塚 雄策(きょうづか ゆうさく) 氏 プロフィール
1950年富山県黒部市生まれ。69年富山県立魚津高校卒業。73年大阪大学工学部造船学科卒業。77年同大学院工学研究科博士前期課程修了。工学博士。77年防衛大学校機械工学教室 助手。85年九州大学応用力学研究所 助教授。90年九州大学大学院総合理工学研究科 教授。大気海洋環境システム学専攻において沿岸海洋環境学を担当。98年から工学部エネルギー科学科の教育にも携わり、潮流発電に関する研究を開始する。九州大学応用力学研究所の大屋裕二教授らと浮体式洋上風力発電プロジェクトにも参画している。

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