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テクノフロントー 第13回「ナノテクノロジープラットフォームの概要」(野田哲二 氏 / 物質・材料研究機構 ナノテクノロジープラットフォームセンター センター長)

2013.01.08

野田哲二 氏 / 物質・材料研究機構 ナノテクノロジープラットフォームセンター センター長

物質・材料研究機構 ナノテクノロジープラットフォームセンター センター長 野田哲二 氏
野田哲二 氏

 ナノテクノロジーは、学術のみならず資源・環境・エネルギーやライフなど幅広い産業の技術革新を先導する基盤技術として、世界各国で重点的に研究開発が行われています。一方で、原子・分子レベルでの材料の加工、計測・解析等の操作のためには、精緻に制御された先端的機器や、清浄空間などの高度な機器、施設、さらには最先端の専門的知識、技術を有する研究者・技術者が必要となります。しかしながら、大学、企業などの全国のすべての研究機関にナノテクノロジーに関わる設備・施設・技術をそろえることは、容易ではありません。人材、施設等の限られた資源を最大限効率的に活用するために、産学官が緊密に連携して研究開発を行うことが求められています。

 このような状況のもと、文部科学省プロジェクトの「「ナノテクノロジープラットフォーム」が2012年に開始されました。ナノテクノロジー研究に関わる最先端の研究設備とその活用のノウハウを有している研究機関が緊密に連携して、全国的な施設共用基盤を形成し、施設・設備共用を通じて産学官の多くの研究者による共同研究を促進するとともに、利用者に対して最短の課題解決に向けたアプローチを提供することを目的としています。

 さらに、このプロジェクトは、次の3つの目標を掲げています。

  1. 産学官の利用者に対して、利用機会が平等に開かれ、高い利用満足度を得るための共用システムを構築する。
  2. 最先端研究設備および研究支援能力を参画機関の得意とする分野の最適な組み合わせで提供できる仕組みを構築し、産業界の技術課題にも貢献する。
  3. 研究者、技術支援者の相互交流、海外ネットワークとの交流を通じて、研究能力や技術支援者の専門的能力向上に寄与する。

 ナノテクノロジープラットフォームプロジェクトには、「微細構造解析」(10機関)、「微細加工」(16機関)および「分子・物質合成」(11機関)の3つの技術領域プラットフォームと、さらにプロジェクト全体の調整と活動支援を行うセンター(2機関)の、全国あわせて39組織があります(図1)。3つの技術領域にはそれぞれ代表機関が置かれ、各代表機関は、各領域の運営取りまとめ機関として、適切な設備、利用形態、利用料金体系の設定、領域内の技術支援者の研修やシンポジウム開催などの交流活動を行うこととなっております。各実施機関は、技術領域プラットフォームの外部共用実施方針に基づいて、共用設備運用組織を設置し、研究支援活動を行います。

ナノテクノロジープラットフォーム参画機関
図1.ナノテクノロジープラットフォーム参画機関

 図2には、物質材料研究機構が参加している微細構造解析、微細加工、分子・物質合成分野での支援装置群の概要を示しています。微細構造解析では、0.1nm(ナノメートル)の原子レベルでの分解能の電子顕微鏡、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)のような重元素イオンの構造まで分析できる世界最高レベルの930MHz強磁場NMR(核磁気共鳴)装置、大型放射光施設「SPring-8」の強力放射光を利用したX線回折、電子状態解析装置が提供されています。また、半導体から金属、セラミックスまでの数nmでの微細構造パターンを作製・加工できる微細加工装置群、有機化合物の合成や細胞や遺伝子レベルでの生体材料の構造を決定する分子・物質合成解析設備群などが用意されています。全国のナノテクノロジー・プラットフォームに参画している機関は、それぞれ特色ある装置や専門的研究により、ユーザが求めるほぼほとんどの支援分野をカバーしています。現在、プラットフォームに登録されている装置群は約600、細かな機器まで入れますと約1000台近くになります。

物質材料研究機構における支援設備の概要
図2.物質材料研究機構における支援設備の概要

 筆者が属する「ナノテクノロジープラットフォームセンター」は、物質材料研究機構(NIMS)と科学技術振興機構(JST)の共同により運営されております。図3にセンターの役割の概略を示しています。

ナノテクノロジープラットフォームセンターの役割
図3.ナノテクノロジープラットフォームセンターの役割

 センターは、プロジェクト全体の運営調整・交流促進と、推進エンジンとしての役割を担っております。具体的な業務は、(1)事業全体の調整・推進、(2)総合的なユーザ窓口・交流促進、(3)企業連携・分野融合、ならびに(4)人材育成支援・国際連携推進です。

 まず、(1)事業全体の調整・推進においては、各プラットフォームの運営方針調整のための代表者会議の開催や各プラットフォーム内の活動状況の把握のために、24の実施機関の訪問などの活動を行っております。(2)総合的な窓口・交流促進では、ナノテクノロジーの総合的なユーザ窓口としてのWeb機能をまずは構築しております。Webページでは、事業の案内、相談窓口(クイックアクセス)、利用方法、全国のナノプラットに登録されている共用設備一覧、参画機関のWebページへのリンクと成果事例紹介、最新のナノテクに関するニュース、各実施機関を含めたイベント情報・カレンダー、Webマガジンなどを提供しております。また、隔週に国内外の読者約1万人に対して、メールマガジンを配信しております。交流促進では、プラットフォーム全体交流のための総会、ユーザを対象とした事業説明会開催ならびに、学協会での紹介シンポジウムなどを企画しております。さらに、ナノテクノロジーの国際的なシンポジウムの開催、世界最大規模の「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」など各種展示会への出展などの活動を行っております。

 本プロジェクトの特色として、新規ユーザの積極的な開拓、分野融合と産業界の課題解決のための共用施設・設備利用促進があります。このため、(3)企業連携・異分野融合事業においては、分野融合連携推進マネージャーならびにJSTから派遣される産学官連携推進マネージャーを全国5カ所に配置し、プロジェクト実施機関と協力して、産学官の共同研究の拡大を図ります(図3)。企業のプラットフォーム利用に関して、ナノテクビジネス協議会(NBCI)などとも協力しています。さらに、課題解決につながる成果が期待される研究に対する、試行的利用を推進します。特に全国の各地域においては、新技術・設備利用説明会などの開催や各地区の大学・研究機関訪問・調査の実施ならびに施設・設備説明会などを開催し、各地区での新規ユーザの開拓と産学官のマッチングを積極的に行います。

 (4)の人材育成・国際連携に関しては、当プラットフォームを活用した学生研修、米国の施設共用ネットワーク「National Nanotechnology Infrastructure Network」(NNIN)などとの学生交流、プロジェクト支援従事者の分野横断研修プログラムを企画・実施します。また、若手研究者育成のための米国、欧州ならびにアジアなどとのワークショップを企画・実施する予定です。

 以上のように、ナノテクノロジー・プラットフォームは、微細構造解析、微細加工、分子・物質合成の3つの支援分野に参画している実施機関ならびにプロジェクト全体の調整・推進を担うセンター機関の一体的な取り組みを通じて、ナノテクノロジー施設共用のネットワークによる新研究分野・新技術領域および新産業創出支援と人材育成支援システムの構築を目指しております。

物質・材料研究機構 ナノテクノロジープラットフォームセンター センター長 野田哲二 氏
野田哲二 氏
(のだ てつじ)

野田 哲二(のだ てつじ) 氏 プロフィール
1946年、横浜市生まれ。64年、北海道立札幌北高校卒業。68年、北海道大学工学部応用化学科卒業。工学博士。73年、北大工学部助手を経て科学技術庁金属材料研究所に入所。高融点金属材料、耐照射材料研究開発に従事。2003年、独立行政法人物質・材料研究機構材料研究所所長、2005年、同機構理事。08年ナノテクノロジーネットワーク拠点長併任。12年から現職。専門は材料プロセス、物理化学。

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