オピニオン

未来館の経営改革(中島義和 氏 / 日本科学未来館 副館長)

2010.02.05

中島義和 氏 / 日本科学未来館 副館長

日本科学未来館 副館長 中島義和 氏
中島義和 氏

 未来館で仕事をし始め、もう3年経った。当時から国の行財政改革の一環として予算は毎年削減されており、館長の毛利衛さんが民間の経営ノウハウをいち早く導入したいという強い思いで民間会社の経営経験者を公募することとなり、ご縁があって小生がその任に当たることとなった。昨年の事業仕分けの報道でも大きく取り上げられたが、本コラムでは当事者としてかかわった未来館の昨今の経営改善努力をご紹介したい。

 第一に与えられたチャレンジは収支差改善である。公的事業の見直し議論の中で赤字とよく言われるが、科学館博物館のような教育事業はアミューズメントパークのような利益追求型ビジネスとしては成立し難い。ゆえに国・地方自治体がこれを行っている事実を踏まえ、収支差という概念を使用するのが適当である。

 未来館の場合、私が着任した当時は27億円程度の収支差であった。これでも当初の30億円程度の収支差から4年ほどで3億円改善したものの(その主体は予算減)、その後は足踏み状態にあった。そこで内部で議論を重ね、ボトムアップでの提案も多く取り入れ、積極的に自己収入改善策を打ち出した。具体例を挙げるならまずパートナーシップ制度の立ち上げである。未来館の理念・活動に賛同いただいた企業とパートナーシップを結び、資金をご提供いただく一方、未来館もパートナー企業のCSR(企業の社会的責任)を主体とする活動に協力するというスキームである。(株)リコーをトップに約10社に参加いただき、厳しい経済環境下ではあるが少しずつその輪を広げつつある。

 また未来館内のテナントについても従来のきわめて安い定額家賃制から売り上げ見合いの家賃制に切り替えて、お互いが協力し合いウイン・ウインになる制度を目指した。1階に新しく入居したロッテリアは、増加した未来館の入館者で売り上げを伸ばしただけでなく、未来館の休館日(火曜)にも店を開け近接のビルからも集客する経営努力で、都内でも有数の売り上げ店舗になったと聞く。また未来館施設についても、学会などのアカデミックな使用には低額で貸し出しをし、空きがある場合は民間用に別途料金を設定して貸し出すよう改め、利用率も向上し増収も図れるようにした。

 一方で業務の効率化も内部で強く推し進めた。着任して最初に感じたのは会議が長い、議論が堂々巡りしてなかなか決まらない、物事は進んでいくのだがどこで何が決定されてどう進行しているのかよくわからない。予算制度なので担当者レベルでのコスト意識が希薄等々、民間の目からは理解しがたいことが多かった。企画部門(科学技術振興機構)と運営部門(同機構から委託された財団)という運営構造の二重性も問題を少し複雑にしていた。

 そこで館長の了承を取り付け財団の責任者とも話し合いを重ね、中長期の戦略・大きな予算を必要とする企画などの決定をする経営戦略会議を別途新設し、従来の運営調整会議をすでに方針として決定されている日々の運営業務の企画・実行について審議するもの、と機能と役割をはっきりさせた。これはおのおの隔週で月2回行っている。

 また前述した2種類の重要会議のほか、科学技術振興機構・財団のコミュニケーションを円滑にする意味でも毎週館長以下館内役職者14人が集まって各部門の状況報告をし、館内情報をシェアし情報レベルの同一化を図り、同じく毎週双方役員4人で個別会議および昼食会を行い意思疎通の齟齬(そご)をきたさないよう努力している。

 この3年間で未来館は以前と比べ組織的な動作ができるようになり(まだ完全ではないが)、会議もその達成すべき目的がはっきりとした効率的なものになってきた。適材適所でシニアマネージャーにも有能な女性2人が任命された。グループリーダーは15人中5人が女性だ。コスト意識については館長以下幹部が繰り返しスタッフに理解を求め、以前と比べ随分高くなった。

 こうした新しい若返った体制でサイエンスコミュニケーター・展示開発・営業・PR・運営各部門の努力協力もあいまって予算が毎年減っていく中で入館者は毎年増加の一途をたどり昨年は91万人に達した。この結果収支差は3年前から26億、25億、24億円と改善し続け。今年度はさらにこれを改善させるよう努力中である。昨年末の事業仕分けでの判定で、未来館運営一体化の方針が打ち出された。今までの経営改善努力がもっとスピーディに実現されると確信するとともにそれに向けて全力で努力していきたい。

 もう一つ付け加えるならば、未来館は2年前からCO2削減を主眼とした環境経営を打ち出し毎年年間の目標の一つとして数値化している。昨年度は4.3%削減を達成し、今年度は7.0%の予想。来年度は8.5%を目標としている(いずれも2007年度比)。

 最後に旬な情報をひとつ。未来館ではいま『‘おいしく、食べる’の科学展』を開催中です。(1) おいしいってなに?〜味わいのメカニズム (2) みんなでおいしく!〜食品の大量生産 (3) いつまでもおいしく〜保存技術 (4) 次においしいのは〜未来の食 (5) おいしくいただいた後には…〜食品廃棄の問題 (6) 本当においしいこと〜健康・安全・食糧危機—以上6つのメニューで食のワンダーランドがお待ちしています。

 またハンズオンで遊べるコーナーでは皆さんの朝食・昼食・夕食をお手製の布製ミニチュア小皿で選び取ってもらいカロリー・塩分・PFC(3大栄養素)バランスを診断します。また食べ合わせのよさ悪さを説明するコーナーも人気です。豚カツとキャベツ、カレーとラッキョ、サンマにポン酢…。意味があったのですね、この組み合わせは。

 クイズコーナーでは“たまねぎ食べると血液さらさらに”“オリーブ油は太らない”“梅干はアルカリ食品だから体に良い”…うそほんと? 最新の科学が答えます。ぜひ未来館にお越しください。3月22日(月)までです、お早めに!

日本科学未来館 副館長 中島義和 氏
中島義和 氏
(なかしま よしかず)

島義和(なかしま よしかず) 氏のプロフィール
岐阜県立岐阜高校卒、1971年京都大学法学部卒、トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社、97年ビーエムダブリュー株式会社(BMW Japan Corp) 代表取締役社長、2000年日本GM株式会社(General Motors Japan Co. Ltd) 取締役副社長、代表取締役COO(社長職)、05年株式会社モメンタムを立上げ、ビジネスコンサルタントとして活動、06年から現職。05年には琉球大学・沖縄国際大学で琉球・沖縄の歴史、文化、言語、文学、芸能を学ぶ。米コロンビア大学経営大学院経営学修士(MBA)。

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