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エネルギー分散型社会を -東北の風土活かし(両角和夫 氏 / 東北大学大学院 教授)

2008.11.26

両角和夫 氏 / 東北大学大学院 教授

東北大学大学院 教授 両角和夫 氏
両角和夫 氏

 私たちはこのほど、科学技術振興機構の2008年度社会技術研究開発事業の研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」に採択され、「東北の風土に根ざした地域分散型エネルギー社会の実現」の研究プロジェクトに取り組む。東北大学大学院農学研究科、環境科学研究科などが参加、研究期間は、13年9月までの5カ年を予定、研究費総額は約1億円である。

このプロジェクトでは、温室効果ガスの大幅削減と環境共生社会の実現という公募課題のもと、主な目標を以下の二つに設定した。

 一つは、地域の再生可能エネルギー・資源を最大限活用するエネルギーシステムを構築する「社会技術」を研究開発し、一般化すること、である。「社会技術」とは、社会科学と自然科学を統合して構築する、社会問題解決のための科学・技術のことであり、端的に言えば新たな社会システムの構築である。

 二つは、研究開発した社会技術を実在する地域社会で「エコミュゼ」として実現し、社会にカルチャーショックを与え環境・エネルギー意識の転換を促すこと、である。「エコミュゼ」は、フランスで発祥した概念であり、ある地域において、環境と共生する生活を住民自身が実現、保存、展示する活動を指す。「地域まるごと博物館」と訳されることが多い。

東北地方には、木質バイオマスはもとより、水力、地熱・地中熱などの地域資源が豊富に存在する。われわれの研究開発では、これらを用いて再生可能エネルギーを獲得し、あるいはそれら資源の活用によって上記の目標の達成を図る。研究フィールドは、既にこうした取り組みを始めている宮城県川崎町、岩手県気仙地域(住田町、陸前高田市)および山形県西川町大井沢の3つの地域である。以下、研究開発の内容を紹介したい。

 目標の一つ、社会技術の開発・一般化について。以下の3つが、主な内容である。

1.自給システム。山村と都市の住民が協働して、里山の手入れを行い、薪(まき)ストーブ用の利用者に薪を供給するシステムを構築する。山村ではかつて、入会あるいは結(ゆ)いによって、里山から薪を自給し、里山の手入れが行われていた。先進事例を研究し、こうした仕組みを現代風に復活するメカニズムを解明する。(川崎町)

2.ローカル・コミュニティビジネス。今日、わが国では林業が不振で、山の間伐が進まない。これでは森林が活性化せず、二酸化炭素(CO2)の吸収も抑制される。しかし、間伐材を利用する薪ボイラー、あるいは木炭発電の導入が進めば、間伐材の利用は拡大し、その供給は、地域の重要なビジネスになる可能性が高い。(川崎町と気仙地域)

3.広域連携コミュニティビジネス。流域レベルの広域経済圏で、地域の資源の持つポテンシャルを最大限引き出し、新たなビジネスの可能性を探る。例えば、山の間伐材と里の家畜の糞(ふん)尿を用いて木炭を製造し、それを用いて藻礁を作成して海藻の苗を育成する。それによって海中林を造成し、海の磯焼け解消を図ることができれば、間伐材も木炭もビジネスの対象となる可能性がある。(気仙地域)

 もう一つの目標、エコミュゼの実現について。

 上記(1)から(3)の社会技術を、順次、地域住民などと研究者の協働によって山形県の西川町大井沢地区に実装し、エコミュゼとして実現する。大井沢の場合、地域の塾活動などにより住民の環境意識は高く、グリーンツーリズムにも積極的である。エコミュゼへの取り組みは多分に社会実験的と言えるが、実現可能性は十分高いことが期待できる。

 今回、研究開発が予定される社会技術は、あくまで試算であるが、仮に東北地方の300カ所程度、世帯数で2〜3%程度が取り組めば、炭素換算で年間約80万トンのCO2の削減が可能である。これは東北の民生部門の年間排出量(800万トン弱)の1割強に相当する。

 地域分散型エネルギー社会の実現は、東北その他地域の当面する深刻な社会問題である、地域間所得格差の解決に展望を与える。であるからこそ、地域の取り組みは真剣である。

東北大学大学院 教授 両角和夫 氏
両角和夫 氏
(もろずみ かずお)

両角和夫(もろずみ かずお)氏のプロフィール
1972年北海道大学大学院農学研究科修士課程修了、農林省入省。80年農林省農業総合研究所、98年同農業構造部長。99年から現職。この間、本省行政官として国際問題、農業共済制度、農業地域振興制度、農業金融制度に従事。農業総合研究所では、主に農業金融問題、農協問題、担い手問題、環境問題の研究に関与。専攻は、農業経済学、地域計画学。農学博士。2003-04年度日本農業経済学会副会長。03年採択の科学技術研究機構・社会技術研究プロジェクト「いわて発循環型流域経済圏の構築に関する研究」(03-06年度)の研究代表者。08年から同じく研究開発プロジェクト「東北の風土に根ざした地域分散型エネルギー社会の実現」代表研究者に。02年6月、NPO「いわて銀河系環境ネットワーク」を設立し、会長に就任。循環型流域経済圏の構築を目指し活動を続ける。

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