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ネットワーク社会の新しいソリューション−非接触IC技術を活用(石積尚幸 氏 / 日本ヒューレット・パッカード社 取締役・副社長執行役員)

2008.05.28

石積尚幸 氏 / 日本ヒューレット・パッカード社 取締役・副社長執行役員

日本ヒューレット・パッカード社 取締役・副社長執行役員 石積尚幸 氏
石積尚幸 氏

 現在インターネットプロトコル技術を利用する次世代電話網NGNや、無線通信技術の規格の一つであるWiMAXといった次世代ネットワークインフラが整備されてきている。日本HPはこの次世代ネットワークと非接触IC技術を結びつけ、様々なネットワークサービスを高セキュリティで提供可能とするソリューションを所有しており、社会インフラとして様々な貢献をしたいと考えている。本稿ではこのソリューションの狙いやいくつかの応用事例を紹介する。

 現在多くの業界が、自宅や会社・公共設備にある様々な端末(パソコン、デジタルテレビ、POSレジ、KIOSK等)からネットワークを介してセンターサーバにアクセスする形態のITサービスを展開している。

 これは固定網(FTTH、xDSL、ISDN等)や無線網(携帯網、無線LAN等)のネットワークが社会インフラとして整備されているからである。

 しかしこれらのネットワークにはコスト・速度・品質のバランスに問題がある。例えば動画配信等のサービスはネットワークの状態でサービス品質が左右される。POS(販売時点情報管理)システムではコスト・速度の観点で、特定の時間のみネットワークに接続して販売情報の更新などを行い、後は端末内部で処理を行うケースが多い。常時接続して販売情報をリアルタイムに送受信するにはネットワークに問題があるのである。

 だが今、NGNやWiMAXといった次世代ネットワーク社会が到来してきている。これらのネットワークは高速・高品質を保証し、比較的安価に利用できるという特徴を持つ。そのため常時ネットワークに接続した高品質なネットワークサービスが提供できるようになる。

 一方ネットワークサービスには社会問題となっているセキュリティ問題が存在し、個人情報や機密性の高い情報には細心の注意が必要とされる。ネットワークサービスを提供するにはネットワークの品質に加え、セキュリティの確保が必要なのである。

 これらの要請にこたえるため我々は非接触ICを使った暗号化技術のFeliCa(注1)を1つの解と考え、FeliCa技術を用いたネットワークサービスを提供する「HP IC-Chip Access server for FeliCa」を開発した。

 「HP IC-Chip Access Server for FeliCa」は、FeliCa ICチップにネットワークを経由してアクセスするサーバミドルウェア製品で、FeliCa ICチップにアクセスするAPI(アプリケーションをより簡潔にプログラムできるように設定されたインターフェース)を提供している。このAPIを利用することにより、ネットワークを経由してFeliCa ICチップにアクセスするサービスアプリケーションをサーバサイドに開発することが可能となる。つまり本製品は、次世代ネットワークとFeliCaを組み合わせた高セキュリティなオンライン型サービス「FeliCaのオンライン型サービス」を、サーバ集中型のシステムアーキテクチャで提供可能にする。HPは通信や金融などのクリティカルな業界で世界中の多くの企業に利用されている業界標準UNIXサーバを取りそろえているが、本製品もこのUNIXサーバを用いて開発されている。そのためシステムは高い信頼性・スケーラビリティ(規模・機能の拡張性)を持ったものとなる。

 サーバ集中型のアーキテクチャは、サービス開発が端末の形態に依存しないという特徴を持つ。複数種の端末をサービスに用いる場合も端末毎の開発は最小限で、各端末をネットワークに接続すれば同じサービスをサーバサイドから提供できる。サーバサイドの1つのプラットフォームでサービスが提供できるので、システムがシンプルになり、全体的なコストダウンが図れる。

 例えばFeliCa技術を利用した電子マネーなどの決済サービス。現在は店舗の決済端末にアプリケーションがインストールされ、端末内部で決済処理が行われる。しかしFeliCaのオンライン型サービスを適用すると、端末をネットワークに接続してサーバサイドで決済処理を行うことになる。そして店舗の端末だけでなくパソコンもデジタルテレビでも、端末の開発は最小限に、サーバに接続することで同一の決済サービスが提供可能となる。

 このFeliCaのオンライン型サービスは、様々な新しいサービスの可能性を持つと我々は考えている。

 現在FeliCaは交通乗車券や電子マネーサービスの実現手法として利用され、多くの人がFeliCaカードや「おサイフケータイ」(注2)を所持している。例えばFeliCaのオンライン型サービスを適用して、これらが持つIDをオープンIDとして利用することが実現可能だ。サーバサイドにID認証のアプリケーションを用意する。サイトにログインする際にユーザがパソコンのFeliCaポート/パソリ(パソコンに簡単に接続できるFeliCaを利用した非接触ICカードのリーダー/ライター)にFeliCaカード/おサイフケータイをかざすと、サーバサイドでIDの認証が行われ、サイトにログインすることができるようになるのである。FeliCaを利用することで、オープンIDとしてのセキュリティ性・信頼性も高くなる。

 高速・高品質のネットワークとFeliCa。この2つが日本HPのIT技術で組み合わさることで、これからのネットワーク社会でもっと広い高度なサービスが提供されていくと考えている。

注釈
・注1) FeliCaは、ソニー株式会社の登録商標です。FeliCaは、ソニー株式会社が開発した非接触ICカードの技術方式です。
・注2) 「おサイフケータイ」は、株式会社NTTドコモの登録商標です。

日本ヒューレット・パッカード社 取締役・副社長執行役員 石積尚幸 氏
石積尚幸 氏

石積尚幸 氏のプロフィール
1959年札幌市生まれ、82年小樽商科大学商学部管理科学科 卒、日本ヒューレット・パッカード社入社、95年プロフェッショナル サービス本部金融アカウント一部部長、98年システムエンジニアリング本部長、99年グローバル・セールス・サービス本部アジア・ パシフィック本部長、2002年執行役員、04年常務執行役員、05年取締役副社長。

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