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彼らはやって来たか(菊山紀彦 氏 / 宇宙アカデミー きくやま 代表)

2008.01.23

菊山紀彦 氏 / 宇宙アカデミー きくやま 代表

宇宙アカデミー きくやま 代表 菊山紀彦 氏
菊山紀彦 氏

 2007年末に福田首相、町村官房長官、石破防衛大臣などが相次いでUFO(未確認飛行物体)に関する見解を公表したことが新聞、テレビで報じられました。

 世間に広く流布しているUFOに関した都市伝説に、ロズウェル事件、エリア51事件などがあります。異星人が乗った宇宙船が地球に不時着したが、その事実や宇宙船の機体、異星人の死体を政府や軍が隠蔽しているというものです。

 また、はるかな太古の時代に異星人が地球を訪れたという説も広く流布しています。ナスカの地上絵が、宇宙船の着陸を誘導するための標識であるという説、パレンケ遺跡の石棺に彫られた人物が、宇宙船を操縦しているという説、津軽半島の亀ヶ岡遺跡から出土した遮光器土偶が宇宙服を着た宇宙飛行士をかたどったものであるという説などです。

 ライト兄弟が1903年に動力飛行に成功したわずか66年後、人類は月を歩いていました。さらにその31年後、2000年からは国際宇宙ステーションに3名の宇宙飛行士が6ヶ月毎に交替しながら滞在をはじめ、2008年1月には、第16次となる3名が滞在しています。人類は誕生して以来、地球という惑星の表面に暮らす「惑星人」として数百万年を過ごしてきましたが、いまその惑星地球を離れて暮らす「宇宙人」への進化の歩みをはじめたのです。

 宇宙は雨も降らず、風も吹かない、生命にとっては過酷な環境です。3億年前に海の魚が陸に上り、呼吸のための肺、乾燥に耐える堅い殻を持った卵など、環境に適応するため様々に肉体を変化させてきました。人類は高度に発達した科学と技術を利用することで、わずか数十年のうちに宇宙に暮らすことができるまでになりました。

 太陽系が属す銀河系は2千億の恒星を含んでいて、宇宙には銀河系のような星雲が2千億も存在します。ハッブル宇宙望遠鏡や、すばる望遠鏡などによる最近の研究で、太陽系以外の惑星系が数多く存在することが明らかになりました。2千億の2千億倍の恒星に、かなりの割合で惑星が存在すれば、その中には生命が発生し、進化するのに適した惑星も多数存在し、すでに高度な科学技術を利用して宇宙人に進化を遂げている種族がいる可能性があります。

 しかしそれらの宇宙人が宇宙船に乗って地球を訪れたという明確な証拠はありません。

 時折テレビで、宇宙人の遺体と称するものが放送されることがあります。そこに見られる宇宙人の遺体は、人類に比べ頭や眼が異様に大きいなどの違いはあるものの、人体に類似した特徴を持っています。また、パレンケ遺跡の宇宙人とされる人物像、遮光器土偶も人体そっくりです。人体の基本構造は3億年前の祖先、魚の形態を受け継いでいるので、頭蓋骨に続く背骨があり、頭部には口や目があります。魚以外の海の生物で、蛸はかなり高い知能を持ち、周囲の状況に応じて巧みに形態や皮膚の色を変えることができます。蛸が陸上に上がり、その子孫が高度な知性を発達させ、文明を築いていれば、その形態は人類とは全く異なっているはずです。

 地球以外の惑星に高度な文明を築いている種族がいた場合、その種族の先祖も人類の場合と同じく海の中の魚だったという可能性はまずありません。宇宙人がどのような形態をしているかは不明ですが、少なくとも人類とは全く異なった形態をしていると考えられます。人類に類似した彫刻や土偶が宇宙人をかたどったものだという考えは全く的はずれです。

 宇宙人が存在する可能性があるのに、彼らが地球を訪れたという形跡がないのはなぜか。いくつかの理由が考えられますが、その中に人類の未来を鏡に映すような仮説が二つあります。

 20世紀に人類は、空を飛び、月に行き、宇宙で暮らせるまでになりましたが、その一方で急速に地球環境を破壊しています。このまま環境破壊が進めば文明そのものが崩壊してしまい、宇宙人への進化の階段を昇り終える前に階段そのものが腐り落ちてしまう可能性が高いといえます。地球以外の惑星に高度な文明を築いた種族も同じような過程をたどって自滅してしまったというのが第一の仮説です。

 3千800年前に書かれたとされているハンムラビ法典には、楔形文字で「盗んではならない」、「殺してはならない」と書かれています。しかし人類の歴史で殺人や戦争が絶えるたことはなく、現在も自爆テロなどが多発しています。

 地球に雨を降らせ、風を吹かせる仕組みが戦争によって壊わされることはありませんが、宇宙船で空気と水を浄化し循環させる仕組みは精緻な科学技術に依存しているため、破壊的な活動があれば簡単に壊れ、乗組員全員が死滅してしまいます。

 宇宙人へ進化した種族も同じように、高度な科学技術は手にしても争いから脱却することはできず、地球への大航海に乗り出しながら、旅の途中で宇宙船の中での紛争から自滅してしまったというのが二つ目の仮説です。

 宇宙人への進化という階段を人類が頂上まで昇りきるためには、地球環境を守り抜き、争いから脱却する以外に途はありません。

宇宙アカデミー きくやま 代表 菊山紀彦 氏
菊山紀彦 氏
(きくやま としひこ)

菊山紀彦(きくやま としひこ)氏のプロフィール
1940年京都市生まれ。東北大学大学院修士課程修了。宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構) 種子島宇宙センター所長、同筑波宇宙センター所長などを歴任、現在は「宇宙アカデミー きくやま」代表。技術士 金属、航空・宇宙。専門は宇宙実験。著書「宇宙飛行士になるための本」(同文書院)、「宇宙飛行士になりたい」(三一書房)、「宇宙生活読本」(ビジネス社)、「宇宙の不思議がわかる本」(三笠書房)。

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