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産学官連携におけるアカデミアの基本軸(田村隼也 氏 / アステラス製薬株式会社 代表取締役 副社長)

2007.12.19

田村隼也 氏 / アステラス製薬株式会社 代表取締役 副社長

アステラス製薬株式会社 代表取締役 副社長 田村隼也 氏
田村隼也 氏

 独立行政法人化に伴って各大学や公的研究機関は客観的評価としての高い成果を上げることに真剣に取り組んでいる。成果の具体化において企業との提携が含まれている場合も多くある。独立行政法人にとって企業との連携は金銭的成果も含めて重要な位置付けだが、公的機関として有している本来の使命や理念という基本軸が揺れることがあってはいけないと思う。

 最近はアカデミアからビジネス化を目的とした提案が多くなされている。産学官連携への認識が高まっているという意味では好ましい現象だが、これらの提案の中にはアカデミアの成果を直ちにあるいは直接的にビジネスにつなげることに力点を置き過ぎているものもあり、アカデミアの基本軸という面では少し懸念を感じる場合がある。

 創薬の場合、企業という立場では、「新規遺伝子の発見や新しい機能解析」というようなアカデミアの成果には大きな興味を持っている。しかしアカデミアと提携する場合、アカデミアに対しては創薬への直線的参画よりも科学的成果の一層の深掘りや、さらなる新規性・普遍性の発見などに貢献することを期待する。

 アカデミアにおいてビジネスマインドを持つことや研究成果の知的財産確保は重要だが、アカデミアの本質は真理の探究だと考える。また、アカデミアの成果をビジネス的にどのように評価するかは簡単ではない。アカデミアとしては科学的価値を即ビジネス価値に結び付けることができれば、独立行政法人としての評価が高くなるという側面もある。

 一方、具体的商業化までの道程は長くその間に必要とされる業務の多様性は増加しているので、提携の起点においては両者(アカデミアと企業)が現在の位置付けと今後目指すものや役割分担を明確にしておくことが重要である。分担にしても、成果だけでなくリスクも分担する覚悟をしなければならない。

 ビジネス化は企業主導になると思うが、企業から不当に低い金額で成果を利用されたといった誤解のないように科学的価値・ビジネス的価値については両者で納得性を高めるべきと思う。成果の現在価値と将来価値の関係、成果とリスクの分担の関係などで両者に認識のズレが生じることもある。現在は過渡的状況のように見える。

 両者間のフレキシブルな人材交流や両者間の橋渡しとしてのインキュベータのような機関の設置などによりWin-Winの産学官連携が充実することを期待している。

本記事は、科学技術振興機構のオンラインジャーナル「産学官連携ジャーナル」12月号巻頭言から転載

アステラス製薬株式会社 代表取締役 副社長 田村隼也 氏
田村隼也 氏
(たむら としなり)

田村隼也(たむら としなり)氏のプロフィール
1972年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、薬学博士、山之内製薬株式会社中央研究所入社、84年中央研究所新薬研究所化学研究部主管研究員、92年経営企画部ビジネス部門担当部長、93年創薬研究本部研究推進部長、97年創薬研究本部長、98年取締役創薬研究本部長、2001年常務取締役、02年専務取締役、04年代表取締役専務執行役員、05年山之内製薬と藤沢薬品工業との合併によりアステラス製薬株式会社代表取締役副社長に。

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