オピニオン

宇宙ことづくりを始めました(澤岡 昭 氏 / 大同工業大学 学長)

2007.11.07

澤岡 昭 氏 / 大同工業大学 学長

大同工業大学 学長 澤岡 昭 氏
澤岡 昭 氏

 来年、いよいよ国際宇宙ステーションに日本の宇宙実験棟“きぼう”の取り付けが始まります。完成は2009年の予定です。宇宙ステーションが完成するとたくさんの生命科学や物質科学の実験が始まります。科学研究だけではなく、教育や産業利用の研究も行われる計画であり、関係者はその日が来るのを待ち焦がれていました。しかし、宇宙ステーションは高嶺の花であり、自分には関係がないと感じる方が多いと思います。

 私は1986年以来20年間、宇宙ステーションの利用推進の仕事にかかわってきました。最近、考え抜いた末にたどり着いた究極の国民的な利用方法が宇宙ことづくりです。ことづくりとはイノベーションの一種です。ではイノベーションとは何でしょうか。イノベーションとは社会にとって新しい価値を生み出す仕組みや仕掛けを意味することばであると思います。

 ことづくりの心は、ワクワクするような新しいこと、社会に役立つこと、できれば新しい価値を生み出すことであると思います。イノベーションと宇宙利用を結びつけることができればとてもエキサイティングです。経験豊かな皆さまには、それぞれに考えやアイデアがあるはずです。個人のアイデアを結びつけて、目に見える形に実現することができたら、こんな愉快なことはないでしょう。これを実現する場として宇宙ことづくりフォーラムを始めることにしました。

 例を挙げましょう。JAXA(宇宙航空研究開発機構)では宇宙ことづくりのモデルとして、排泄の問題を調査することにしました。スペースシャトルの飛行は2週間が限度ですが、宇宙ステーションとなると3〜6カ月が普通です。現在建設中の国際宇宙ステーションには3人の宇宙飛行士が滞在しています。完成すると6人が長期滞在します。

 狭い宇宙ステーションで毎日を快適に働くためには、食事だけではなく、快適なトイレが必要です。無重力の世界では、プロの宇宙飛行士であっても、排泄には相当の苦労をしています。

 地上でも高齢者が排泄に苦労していることはご承知の通りです。寝たきりになると本人だけではなく、介護の方々の苦労は想像をはるかに超えるものがあります。宇宙での排泄の問題解決は、地上の排泄問題解決に大きなヒントになるはずです。これが宇宙ことづくりの良い例であると考えます。

 排泄の問題解決には技術者や介護の専門家だけではなく、高齢者の介護の経験のある一般の方の知恵も必要です。国民の多くにとって関心のある大きなテーマであると思います。

 人は必ず年をとり、一人で排泄ができなくなる時がきます。しかし、アッと驚くようなトイレの登場によって、一人で排泄をすることができる期間を大幅に延ばすことができるはずです。このことは人間の尊厳を保つ上で、重要なテーマです。

 その次に睡眠の問題を取上げたいと考えています。さらには国民皆さまの提案によってさまざまな問題を取上げ、社会のお役に立ちたいと思います。ご意見を以下にお聞かせ下さい。

 sawaoka@daido-it.ac.jp

大同工業大学 学長 澤岡 昭 氏
澤岡 昭 氏
(さわおか あきら)

澤岡 昭(さわおか あきら)氏のプロフィール
1938年北海道生まれ。65年北海道大学物理学専攻修士課程修了。大阪大学助手、東京工業大学工業材料研究所助手、同助教授、教授を経て94年東京工業大学工業材料研究所長、96年同大学応用セラミックス研究所長、99年3月に退官、同年4月より大同工業大学長、現在に至る。99年から宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)技術参与として国際宇宙ステーションの応用利用推進にかかわる。専門は宇宙利用国際戦略論。文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会会長を務めるほか、同省キーテクノロジーのプロジェクト・デレレクターも。

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