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知的財産人材について想う(小川 洋 氏 / 内閣官房知的財産戦略推進事務局長)

2007.09.19

小川 洋 氏 / 内閣官房知的財産戦略推進事務局長

内閣官房知的財産戦略推進事務局長 小川 洋 氏
小川 洋 氏

 知的財産戦略本部は5月31日、安倍内閣としては初めての「知的財産推進計画2007」を策定した。今回の計画では、現内閣が取り組んでいるイノベーションの創造と日本の魅力の海外への発信を念頭に置き、従来にも増して「国際的展開」と「コンテンツの振興」に力を入れているが、これらに加えて、「知的財産に関する人材の育成」を重要な課題と捉えている。

 我々が目指す知財立国の目標は、知的財産の創造、保護、活用の「知的創造サイクル」の好循環が自律的に起こる社会である。それを人材の観点からみると、「知的創造サイクル」の各段階を担う多様な人材が絶えず供給され、参入してくる社会になることだと思う。多様な人材を質・量両面で確保することは、一朝一夕にできることではない。家庭、学校、地域、さらには社会がうまく協働し、地道に努力することで初めて実現されるものである。産業に従事する実務家が学校や地域における人材育成の現場で活躍するなど、人材育成面での産学官連携ももっと進めるべきである。

 また、「知的創造サイクル」がうまく回っている社会は、多様性、違いを認め合う。だから、人が努力して生み出した価値を正当に評価する。社会として、多様性があり、選択肢が多く、その選択に必要な情報が提供され、自由に選択できる状況にあることが求められる。

 各制度の見直し・整備に当たっても、これらがキーワードになると考えている。その際、「知的創造サイクル」の各段階および技術分野に限らず、成功事例を1つでも多く生み出し、提供することが重要である。次に続く者を増やし、鼓舞するからである。

 昨年秋、富山県の小学6年の少年が傘の置き忘れを警告する装置について特許をとったことが報じられた。彼は小学校の課外のクラブ活動に参加しており、ご家族の雰囲気も影響しているものと思われる。例えば、この1つの事例を契機に、学校や地域における理科教室、発明クラブといった取り組みが強化され広がっていくこと、そして「よーし、自分もやってみよう」という子どもが一人でも多く出てくることを期待したい。こうした積み重ねが多様な人材を生み、この国を知財立国に近づける。

本記事は、科学技術振興機構のオンラインジャーナル 「産学官連携ジャーナル」9月号巻頭言から転載

内閣官房知的財産戦略推進事務局長 小川 洋 氏
小川 洋 氏
(おがわ ひろし)

小川 洋(おがわ ひろし)氏のプロフィール
京都大学法学部卒業、1973年通商産業省入省、99年近畿通商産業局長、2003年経済産業省産業技術環境局長、04特許庁長官、05年9月特許庁長官退官、06年11月から現職。

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