オピニオン

文明の転換(丹保憲仁 氏 / 北海道大学元総長、放送大学前学長)

2007.06.13

丹保憲仁 氏 / 北海道大学元総長、放送大学前学長

北海道大学元総長、放送大学前学長 丹保憲仁 氏
丹保憲仁 氏

 1972年のストックホルム人間環境会議以来、人類は地球が閉じた系であり、人類の果てしない成長(増殖)はないことを確実に知り始めた。18世紀初めから21世紀末にかけて人類は史上最大の、おそらく史上ただ一度の、大増殖を近代文明上で描いている。さまざまな推計法や閉じた系の人口変化を大略記述するロジスティック曲線等で予想される地球の飽和人口は、100億人前後と想定される。

 200年にもわたり、近代を疾走させた化石エネルギーの現在の消費量は、地球に注ぐ太陽エネルギー17万テラワット余りのわずか千分の1以下の10テラワットなのに、すでに資源枯渇と地球温暖化の二重苦を地球に発生させている。バイオマスへ転換するエネルギーも太陽入力の0.1%以下の150テラワットに過ぎないという限界を考えると、マルサスのエッセイが述べた食物供給の限界もやがて行く手に立ちふさがるように思われる。バイオマスを化石エネルギーの代わりに使うのは、化石エネルギーが太陽エネルギーの長期積分結果であることを考え、地上バイオマスの平均サイクルタイムが30年くらいであることとあわせ考えると、きつい利用限度がある。

 人類の発達を、物質・エネルギー消費の拡大と絡めない、文化的経済現象(あるいは文化現象)として人類の努力目標にできるかどうかが今問われているように思う。量的成長でなく質的発達という量から質への文明指標転換が近代の次の時代の人類の行動規範となるかどうかが地球の未来を決める。開いた心と、閉じた物質代謝を厳しいエネルギー制約条件下で果たさなければならない。かつて考えることもなかったことに現代人類は直面している。「価値の創造が価値」である文明を人類がその生きがいとして将来持ち得るかどうかが、持続可能な生物として人類が生きつづけられるかどうかの鍵であろう。

 物の消費を評価基準としない、文明価値の創造がゆっくりとでも良いから進まねばならないと思う。金を獲得する事だけの単一スケールの量的経済は消えてもらわねばならぬ。

本記事は、「サステナビリティ学連携研究機構」季刊誌第3号巻頭言から転載

北海道大学元総長、放送大学前学長 丹保憲仁 氏
丹保憲仁 氏
(たんぼ のりひと)

丹保憲仁(たんぼ のりひと)氏のプロフィール
1933年北海道生まれ、57年北海道大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了、69年北海道大学工学部教授、93年北海道大学工学部長、95年北海道大学総長、2001年放送大学学長、2007年から北海道開拓記念館館長、専門は環境工学、著書に「人口減少下の社会資本整備ー拡大から縮小への処方箋」(2002年、土木学会)など。

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