オピニオン

さきがけものがたりー 細胞中に仕組まれた光るタンパク質(三輪佳宏氏 / 筑波大学 人間総合科学研究科 講師)

2007.05.25

三輪佳宏氏 / 筑波大学 人間総合科学研究科 講師

三輪佳宏氏(筑波大学 人間総合科学研究科 講師)
三輪佳宏氏(筑波大学 人間総合科学研究科 講師)

 三輪が今行っている研究は、飲んだ薬が体内のどの細胞に届いているかを見えるようにするものだ。薬物の動きを追うための武器は、「デグラトンプローブ」と名づけた特殊なタンパク質。これで、細胞中の薬を追跡する。

 「デグラトン」という学名には、物語がある。

 自分の設計した蛍光タンパク質を「デグロン(Degron)プローブ」と名づけていたのだが、このデグロンというのは、タンパク質分解を促進する機能をもった短いアミノ酸配列について名づけられたものだった。この定義とは違った使い方なので、論文投稿の際に再考することにした。

 筑波大学には秋山学先生というギリシャ語・ラテン語の専門家がいたので、時間をいただき、同僚と相談に出かけた。

 デグロンの「デグロ」の部分は、Degradation、すなわち ”分解してしまう“という意味、語尾の「〜on」の部分は、 ”他のものに働きかけて作用させる“といった、他動詞的意味をもっているそうだ。三輪の設計した蛍光タンパク質は、自分が分解してしまうわけだから、自動詞である。自動詞的な語尾としては、「メノン(menon)」があるという。

 しかし、この蛍光タンパク質は、分解されるだけでなく、薬にくっつくなど状況が変わると分解されないこともある。つまり、両方の機能を兼ね備えているところが一番大事なのだ。語尾を「メノン」にすると、「いつもだらしなく分解してしまう」というイメージになってしまう。それで、秋山先生が、「デグラトン(Degraton)」はどうか、と提案してくださった。

 デグラトンの「〜ton」は、英語でいうと「〜able」、可能という意味になるという。つまり、「分解可能」という意味になる。それなら、変幻自在の優秀な分子というイメージで、みんな嬉しくなった。

 こうしてめでたく「デグラトン」という名前になった、というわけだ。

(科学技術振興機構 嶋田一義)

  • 「さきがけものがたり-未来を拓く研究者たちのドラマとその舞台」(アドスリー発行、丸善 販売)から要約転載)

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