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リタイア研究者に再チャレンジのチャンスを(澤岡 昭 氏 / 大同工業大学 学長)

2007.04.16

澤岡 昭 氏 / 大同工業大学 学長

大同工業大学 学長 澤岡 昭 氏
澤岡 昭 氏

 9年前、私が東京工業大学を退官する1年前のころであった。その当時の東工大は60歳定年、辞めたあと何をしようかと考えていた。研究所長を務めて5年目、研究、教育と研究所マネージメントの仕事のバランスに苦労していたころである。もちろん、研究は続けたいと思っていた。

 研究所の会合で、「そろそろ区切りをつけて、残る1年かけて研究を整理したいので、ご協力いただきたい」と発言した。その時、身内の研究者に、「先生! まだ研究をしていたのですか?」と言われ、ショックを受けたことがある。若い研究者は、私を研究者として認めていなかったのだ。4年も研究所長の仕事についていたからであろうか。

 思い返してみると、常に私は、10歳程度年長の研究者をライバルと感じ、20歳年上の教官は問題外と思っていた。これは、私だけではなく、多くの研究者が感じている一般的なことなのではないだろうか。

 本当のところ、研究者は何歳まで現役でいられるのだろうか。何歳で後進に道を譲ったほうが世のためになるのであろうか。最近、国の研究プロジェクトマネージメント役を務める立場から、この問題を考えることがある。

 少なくとも、過去10年間、科学研究費補助金を含めて多くの研究助成は、若手優先の方針が打ち出されている。それが現在でも叫ばれているのは、依然として、特定の年長研究者に研究費が集中する傾向が続いていることが、一つの理由であることは事実だ。しかし、一般の年長研究者の研究費取得率が低下していることも事実である。

 このことによって比較的地味な分野の、年長研究者の研究費取得率は間違いなく低下しており、国としての研究開発の底力が弱くなっていることは由々しき問題である。この現象は国立大学の法人化によって、一層加速したように感じている。

 企業においても然り。50歳前後から第1線から外された多くの有能な研究者が不得意な生産管理や知財部門などに配置され、能力が発揮されない例を多く見てきた。大学を含めてリタイアした研究者の能力活用と、これを通じて、彼らの自己実現を図ることは極めて重要な課題である。

 特に大学ではリタイアした教員がいつまでも研究室に残ることは後継者にとって迷惑であることも事実である。場所代を含めた研究費と研究者自身の人件費を持参してくれる研究者は、多くの貧乏私立大学にとって大歓迎である。

 年1000万円規模のリタイア研究者への公募研究の制度が開かれるなら、若手研究者が一目置く、驚くような成果が出て、これほど投資効果が高い研究開発はないことにまた驚かされることであろう。

大同工業大学 学長 澤岡 昭 氏
澤岡 昭 氏
(さわおか あきら)

澤岡 昭(さわおか あきら)氏のプロフィール
1938年北海道生まれ。65年北海道大学物理学専攻修士課程修了。大阪大学助手、東京工業大学工業材料研究所助手、同助教授、教授を経て94年東京工業大学工業材料研究所長、96年同大学応用セラミックス研究所長、99年3月に退官、同年4月より大同工業大学長、現在に至る。99年から宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)技術参与として国際宇宙ステーションの応用利用推進にかかわる。専門は宇宙利用国際戦略論。文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会会長を務めるほか、同省キーテクノロジーのプロジェクト・デレレクターも。

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