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産学連携・大学の課題(清成忠男 氏 / 法政大学 学事顧問)

2007.03.27

清成忠男 氏 / 法政大学 学事顧問

法政大学 学事顧問 清成忠男 氏
清成忠男 氏

 21世紀に入ってから、社会における大学の役割に大きな変化が生じている。20世紀に進展した工業化は、生活水準の向上などのメリットをもたらしたものの、同時に深刻な問題を引き起こした。地球環境問題、資源・エネルギー問題などがその代表例である。地球の存立にかかわる大問題であるといえよう。

 のみならず、先進諸国においては、少子高齢化の進展とともに、介護や医療など福祉関連の問題が生じている。

 いずれにしても、「持続可能な社会」を構築することの重要性がますます拡大している。そのための問題解決を図らなければならなくなっている。

 こうした問題解決に当たっては、研究開発を通じた新しい知識創造が不可欠である。知識創造ということになると、基礎的な部分において、大学の果たす役割は大きい。もっとも、今日では知識創造の主体は大学だけではない。むしろ、産業界が重要な役割を果たしている。産学連携の効果は大きいはずである。今日の問題解決には、多様な科学技術が不可欠である。固有技術を確立している数多くの大学や企業のネットワーキングが重要になる。

 科学技術のみならず、大学の有する社会科学の知見も有効に活用されよう。学際的な連携の効果は、極めて大きい。

 こうした状況下で、大学は大きく変わらなければならない。大学は従来タイプの教育・研究にとどまらず、社会的な問題解決のための教育・研究を積極的に進めなければならない。大学は、「象牙の塔」から「開かれた大学」へと転身しなければならない。産学連携でイノベーションを展開するには、それにふさわしい体制を用意しておく必要がある。

 ただ、産学連携に関する大学の意識改革はまだ必ずしも十分ではない。トップ・マネジメント、教学の双方において、より一層の意識改革が望まれる。

 産学連携で社会的に有用な問題解決を図ること、言い換えれば新たな活動を通じて社会的に大きく貢献すること、それが大学にとって新しい公共性であるといえよう。そこまで踏み込めば、大学は広く社会に受け入れられ、「冬の時代」を越えて明確な存在意義を示すことができる。

本記事は、科学技術振興機構のオンラインジャーナル産学官連携ジャーナル3月号巻頭言から転載

法政大学 学事顧問 清成忠男 氏
清成忠男 氏

清成忠男 氏のプロフィール
1933年東京生まれ 50年東京大学経済学部卒業、73年法政大学経営学部教授、96年法政大学総長・理事長、2005年法政大学学事顧問。日本ベンチャー学会特別顧問も。

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