21世紀を迎え、我が国は人口減少時代に突入し、さらに地球規模で見れば、人口問題、食糧問題、環境・エネルギー問題等の諸課題が顕在化する状況にある。
人口減少局面においても我が国が十分に力強く成長し、一人一人が豊かで安全・安心な生活を享受するとともに、世界の諸課題の解決に貢献していくためには、我が国に新たな活力をもたらすイノベーションの創造が必要である。
そして、たゆまざるイノベーションの創造のためには、科学技術力の強化とそれが社会で活かされる仕組み作りが重要だ。
安倍総理の所信表明演説で、「イノベーション25」の策定が公約に盛り込まれた。
日本が「美しい国」として繁栄を続けるためには、安定した経済成長が不可欠であり、イノベーションの力とオープンな姿勢により、日本経済に新たな活力を取り入れることを目指す。
具体的には、成長に貢献するイノベーションの創造に向け、医薬、工学、情報技術などの分野ごとに、2025年までを視野に入れた、長期の戦略目標「イノベーション25」を取りまとめ、実行することとし、その担当大臣に私が命じられた。
イノベーション担当大臣は、安倍政権で初めて置かれたポストである。また、その実務に当たるため、内閣府に「イノベーション25特命室」を設置した。
学界、産業界など高い見識を有する方々からご意見を聞く場として、黒川清氏を座長とし、7名の委員からなる「イノベーション25戦略会議」が設置され、これまでに4回の会合を持った。
このイノベーション戦略会議では、今後、第一段階として、イノベーションで2025年の国民生活が、安全や利便性の面も含めて、どうなるのかを分かりやすい形で示すとともに、そのための目指すべきイノベーションについて、2007年2月をめどに取りまとめることとしている。
ここでいう「イノベーション」とは、単なる「技術革新」という狭義の概念ではなく、広く社会のシステムや制度をも含めた「革新・刷新」である。
そして、その結果をもとに、第二段階として、総合科学技術会議等を活用し、実現のための戦略的ロードマップの検討を行い、2007年5〜6月までに「イノベーション25」を取りまとめることとしている。
世界の主要各国は、国際競争力を高め、それを維持する上で、科学技術を重視している。
例えば、米国の90年代の復活は、科学技術への投資の拡大が産業・経済の発展を導いたと言われている。「パルミザーノレポート」や2006年のブッシュ大統領の一般教書演説における「米国競争力・イニシアチブ」などでも、国際競争力の維持・強化のため、科学技術を軸としたイノベーションを掲げている。
EUは、「活力ある知識経済の構築」を目標に掲げ、イノベーションの強化を指向し、英国も、ビジネスを含む新技術とイノベーションへの投資を重視している。
最近急成長している中国も、2006年に発表した「国家中長期科学技術発展計画綱要」では、自主技術によるイノベーションを意味する「自主革新」「創新型国家」を掲げている。
このような状況の下で、世界各国はこぞって、政府の研究開発投資を拡大している。
また、中国の「海亀政策」をはじめ、人材獲得競争も展開されている。21世紀は、まさに「知の大競争」の時代と言える。
技術の進歩や、暮らし方の改革などを含め、生活者の立場に立ちつつ、「生活がこんなに便利になる。安心になる」という夢のある未来を描き、そこへの道筋を明らかにしていきたいと考えている。
本取組の第二段階である、夢のある未来の実現のための戦略的ロードマップを分野別にまとめる工程では、産学官の新たな連携の在り方等についても、主要な検討課題の一つとなると思われる。
本誌読者の皆様からも、是非忌憚(きたん)のない積極的なご提案をいただければと願っている。
今こそ、科学技術力を核としたイノベーションを日本各地で起こし、知の世界大競争の中、生活者の立場を大切にしつつ、力強い日本、豊かさと夢のある社会を実現するため、皆様とご一緒に、本格的な産学官協働関係を作り上げていきたいと考えている。
本記事は、科学技術振興機構のオンラインジャーナル産学官連携ジャーナル1月号の巻頭言からの転載です。
高市早苗(たかいち さなえ)氏のプロフィール
神戸大学経営学部卒業。松下政経塾を卒塾。米国連邦議会勤務などを経て、1993年の衆院選・奈良全県区でトップ当選し、奈良県初の女性代議士となる。2004年4月から06年3月まで近畿大学経済学部教授(中小企業論・産業政策論)。現在、衆院議員4期目、内閣府特命担当大臣としてイノベーションのほか、「沖縄及び北方対策」「科学技術政策」「少子化・男女共同参画」「食品安全」も担当している。
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