オピニオン

若者に大きな感動と衝撃を(吉本和夫 氏 / 大阪大学大学院 理学研究科 招へい研究員)

2007.01.09

吉本和夫 氏 / 大阪大学大学院 理学研究科 招へい研究員

大阪大学大学院 理学研究科 招へい研究員 吉本和夫 氏
吉本和夫 氏

 暗いニュースが多く、日に日に教育現場は元気を失いつつある。若者達は生きる力や明日への希望をすり減らし、感動に飢えている。

 しかし、わずか3日間の実習でも、高校生や大学生の人生を変えるほどの「感動と衝撃」(ジャイアントインパクト)を与えることができる。私は、この22年間、大阪教育大学附属高校平野校舎で生命科学教育や連携教育を研究・実践し、理科教育再生へのビジョンやノウハウを提案してきた。

高校生が人生を変え、大学生が院生を超える

 私は、倉光成紀先生(大阪大学大学院理学研究科教授)との共同授業として平成8年から始めた分子生物学の実習で、理科好き、思考好きな若者を増やすための多くの手がかりを得た。

 この実習は、高校生を主な対象として、大阪大学で3日間延べ24時間以上かけて行うもので、単に科学技術を体験することだけを目的とせず、遺伝子組み換えなどの分子生物学の実験と、これらの実験に関する小問を通じて、結論を急がずに科学や思考をエンジョイしながら、生命の本質に迫るものである。

 よって、市販の実験キットはいっさい排除し、すべての実験手順・操作を体験させ、その意義を考えることによって科学の本質に迫り、「わかるということ」がどういうことなのかを、大学生(TA)の指導の下で学ぶ。

 生徒達の多くは、感想文を「なぜか、無性に勉強したくなった!」「何のために自分たちは今、高校で勉強しているのか!」「こういう生き甲斐のある人生を自分もやってみたい。いやこういう人生をやるために今、勉強しているのだ。」「私の人生、変わったと思います!」と締めくくっている。

 若者達は、自然科学の最前線の科学や思考をエンジョイしながら多くのことを実体験し、自己の視野の狭さに気づくとともに、学ぶこと・思考することの喜び・面白さを知るなど「明日への展望」と「生きる力」を得ていた。さらに、高校生を指導する大学生も、長時間の指導とその準備のため多くのことを学び、劇的な成長を遂げて、院生をも超えてしまう。

 中だるみした大学生活に活を入れ「何のために大学に入学したのか?」を思い出させ、大学生としての自覚、研究への興味を芽生えさせることができた。

TAの育成が課題

 今後の課題は、この実習の命であるTAを今後どのように安定的に育成し、また、新人TAにどのようにして、実習準備と指導法のマニュアルを受け継がせるかということである。これは、大学内に連携教育施設がまだない現状では、きわめて難しい問題である。

 今後は、この実習の恒久的な実施、実施回数の増加、他大学での実施などを実現し、1人でも多くの高校生や大学生に元気を与え、科学に対して「これは面白い、もっと勉強してみたい」と言ってもらえるように、連携教育のプロが指導する連携教育施設を早期に設立し、このような体験ができ、学びもあり、感動もある実習を、1回でも多く実施したいと思っている。そのための公的支援を切に要望するところである。

実習風景(提供:吉本和夫氏)
実習風景(提供:吉本和夫氏)

JSTNews1月号のコラム欄号からの転載です。
この実習の詳細については文部科学省SPP事業紹介サイト参照

大阪大学大学院 理学研究科 招へい研究員 吉本和夫 氏
吉本和夫 氏
(よしもと かずお)

吉本和夫(よしもと かずお) 氏のプロフィール
2006年3月まで22年間、大阪教育大学附属高等学校平野校舎に勤務、現在、大阪大学大学院理学研究科招へい研究員。特定非営利活動法人(NPO)千里アーカイブスステーション客員研究員、国際生物学オリンピック日本委員会(JBO)委員、日本生物教育学会理事を兼務する。

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