オピニオン

オープンソース活動と民主主義(西村吉雄 氏 / 早稲田大学 科学技術ジャーナリスト養成プログラム 客員教授)

2006.11.01

西村吉雄 氏 / 早稲田大学 科学技術ジャーナリスト養成プログラム 客員教授

衆知を集めるオープンソース活動

早稲田大学 科学技術ジャーナリスト養成プログラム 客員教授
西村吉雄 氏

 これまでをインターネットの第1段階、これからは第2段階とし、この第2段階をWeb2.0と呼ぶことが多くなった。

 その本質は「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」(梅田望夫『ウェブ進化論』、ちくま新書、2006年)だという。

 インターネットのおかげで、情報交換が速くなり安くなった。だから仕事の効率が上がる。ただし仕事の中身はインターネット以前とあまり変わらない。これが第1段階である。

 しかし、技術はさらに進歩する。いっそ仕事のやり方を変えよ。不特定多数を巻き込んで、衆知を集める。そうしても速度も費用もなんとかなる。これがWeb2.0だ。

 オープンソース活動がWeb2.0的な開発を象徴する。その成果として私たちはすでに、リナックス(ソフトウエア)やウイキペディア(百科事典)を手にしている。「自分の考えを無償でネットに公開、その成果に他者が自身の活動を追加展開、報酬は仲間(= peer)からの賞賛・尊敬」。

 こう特徴を並べると、オープンソース活動は学問研究によく似ている。オープンソース活動の多くは非営利だ。しかし、営利事業と連携して活動することもある。典型はリナックスだろう。このときの営利−非営利関係は産学連携に酷似する。

参加者が多いほどよくなる

 不特定多数に信をおくという意味で、Web2.0は民主主義に通ずる。実際グーグル社はそのホームページで“Democracy on the web works”と宣言している。

 しかし、不特定多数はときに愚かで、暴力的な集団と化す。「衆知でなく衆愚」「現代の魔女狩り」「グーグル八分(グーグル社の検索結果に自分のサイトを入れてもらえなくなること)は差別」。

 ネット上の不特定多数の振る舞いへの批判も激しい。

 事典内容に関して意見が対立し、激しい書き換え合戦などがウイキペディアでもあるという。そのときには「管理者」が調整する。「良い方向に働く力が微妙に勝っている。参加する人が多ければ多いほど、より良くなると感じる」。管理者を3年以上続ける今泉誠氏はそう語る(安田朋起「ウェブが変える1」、『朝日新聞』朝刊、2006年7月27日付)。

 この経験は本質的である。民主主義はもともと最良解を保証するシステムではない。尭や舜(中国の伝説的な名君)が常にいるのなら、名君にまかせたほうが良いに決まっている。けれども生身の名君は必ず老い、そして 乱心する。「ご乱心の殿よりは衆愚がまし」。これが民主主義だと私は思う。

本記事は、科学技術振興機構(JST)の広報誌JSTNews11月号のコラム欄からの転載です。

早稲田大学 科学技術ジャーナリスト養成プログラム 客員教授
西村吉雄 氏
(にしむら よしお)

西村吉雄(にしむら よしお)氏のプロフィール
1965年東京工業大学電子工学科卒業、71年同大学大学院博士課程修了、79年日経エレクトロニクス編集長、94年日経BP社調査開発局長、2002年東京大学大学院工学系研究科教授を経て、現職。東京工業大学監事を兼務する。「技術ジャーナリスト」としての長い経験を基に、ネットワーク時代における新しい産業と研究開発との関係、産学連携のあり方などに関する著書も多数。

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