大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)は2000年の開学以来、他に類を見ない多文化の教育環境をつくってきた。卒業生は世界各地で活躍し、強固なネットワークを形作っている。一方で、緊張感が増す国際情勢や移民・外国人に対する反発といった社会の不安定化が、将来の予測を難しくしている。そんな時代にあって、国際性を最大の特色とするAPUは自らの強みをどのように磨いていくのか。また、地方にある私学として、人口減少社会における使命をどう捉えているのか。APUが進もうとしている道について、米山裕学長の言葉から探った。

「3つの50」を達成し、世界に広がる卒業生ネットワーク
―APU開学以来の精神や25年間の成果について教えてください。
他にない国際的な大学を作ることを目指し、留学生の比率50%、外国籍の教員比率50%、学生の出身国・地域数50という「3つの50」を掲げてスタートしました。これらの数字を25年間、ほぼ達成し続けてきたことは大きな成果だと思います。

―この四半世紀で送り出した卒業生は相当な数でしょう。
2万5千人を超えました。豊かな国際経験があり、肌感覚で外国人と付き合える人材が世界中で活躍しています。卒業生たちの多くは愛校心が強く、校友会の支部が海外に28あり、国内も含めると38になります。こうしたネットワークはAPUにとどまらず、日本の国益にも資するものではないかと考えています。

―各国で要職に就いた卒業生もいるのではないですか。
現職のスリランカ駐日大使がAPU出身です。大使は母校への思い入れを強くお持ちで、私たちとしても嬉しい限りです。ほかにもトンガの副首相、インドネシア東ジャワ州の副知事、タジキスタンの労働大臣などを務めた卒業生もいます。さまざまなところで活躍する卒業生たちを送り出すことはAPUのミッションの1つですし、各国と良好な関係を築くことで日本のためにも役立っていると考えています。

―25年間で世界情勢は大きく変わりました。APUは国際協調にどう貢献していきますか。
対立と紛争と分断が進む時代に対応する大学教育を、本格的に構築しなければならないと考えています。紛争の解決や、難民・マイノリティの支援に貢献できる学生を育成したいですね。また、ヘイトや偽情報に惑わされない情報リテラシーを身につけるための教育も、国際性を特色とする大学として他大学に先んじて実現しなければなりません。
一緒に生き、年を取り、死んでいく覚悟を
―外国人をめぐって社会の関心が高まっています。
私自身、移民問題を専門とする研究者ですので、かなり危機感を感じています。外国人を低賃金の労働力として扱うような仕組みは、見直すべきタイミングにきています。
―外国人も日本社会の一員である、ということですね。
外国人たちが短期的に働いて帰国することは基本的になく、多くは日本に定着すると考えるべきです。家庭をつくることになりますので、第二世代の教育や、外国人コミュニティとホスト社会との関係にどう折り合いを付けるかといった問題も出てきます。彼らが年を取れば福祉の対象にもなりますよね。社会全体でそういったさまざまな現象が起きることを想定し、議論をしなければなりません。

―私たち日本人の意識も重要になりそうです。
日本社会のこれからの大きな課題は、外国人と一緒に生き、一緒に年を取り、一緒に死んでいくという覚悟を持てるかどうかだと思います。本当の意味での共生社会を実現するには、単なる労働力ではなく社会の一員として外国人をどう受け入れるかの視点がとても大事です。APUとしては、ダイバーシティ&インクルージョン研究の推進で、みんなが一緒に暮らせる「インクルーシブ社会」の実現に貢献したいです。
―「APU2030ビジョン」アクションプランに掲げられた「社会・地域に貢献する国際通用性のある研究の推進」に関わる部分ですね。
APUの研究には、厚みのある分野がいくつかあります。1つはダイバーシティ&インクルージョン。それと国際関係、国際経営、観光学などですね。そういった強みを持つ分野の研究拠点を作って論文などのアウトプットを出したり、研究成果をもとに社会貢献できるようなセンターを作ったりするという方針を立てました。理系の大学とは違う形でノウハウを提供し、社会実装の加速やマネタイズも目指していきたいですね。

人材の多様性だけでイノベーションは生まれない
―九州では半導体産業が活発です。APUもこの流れに参画していくのでしょうか。
台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出を契機に、半導体産業が盛り上がっていますよね。一方で、半導体関連のグローバルサプライチェーンの中で交渉やマーケット分析を担うなど、マネジメントできる人材が不足しているという課題も聞きます。APUは半導体をつくるための教育・研究をしていませんが、技術的なこともある程度は理解してビジネスに携わる人材の育成を目指して「半導体国際ビジネス人材育成プログラム」を立ち上げました。実際に大分の半導体関連企業の方々と話しても、皆さんが「そういう人材が欲しかった」とおっしゃいます。APUのグローバルネットワークを生かせる点も含め、非常に手応えを感じています。

―日本では長いことイノベーションが生まれていません。人文・社会科学系の大学として、産業の再興にどのような貢献が可能でしょうか。
イノベーションには多様性が大事だとよく言われますが、多様な人をただ一緒に置いておくだけでは成果は出ません。どう協働するかにもノウハウが必要なのです。ポイントは、もっと根源的なところで相手の話を聞き、考えを受け入れて否定しないといった「心理的安全性」だと思います。多文化混合部隊をマネジメントして、イノベーションを生み出すための基盤的なノウハウはAPUにあると思っています。
人口減と高齢化が進む中、学生が地域活性化に一役
―非大都市圏に立地していることもAPUの大きな特色の1つです。地域への貢献についてもお聞かせください。
温泉資源のある別府市は、古くから全国有数の観光都市です。APUもサステイナビリティ観光学部を設けたことで、市の政策立案や観光業界に対するノウハウの提供が可能になりました。また、別府市が注力する「新湯治・ウェルネスツーリズム」への貢献も考えています。観光+健康増進を狙った湯治文化を発展させたブランディングや産業創出施策に、APUも関わっていきたいですね。

―別府市内における学生の活躍事例なども教えてください。
市民の皆さんには本当に大事にしていただいています。おかげで学生たちも、いろいろな場面で活動できています。市の総合計画を一緒に作るといった行政に関するものから、地元商店街のコミュニティ活性化など、大学が主体となっているものだけでなく学生が個人的に活動しているものも多く、大学としてもすべては把握しきれていません。別府市の20歳前後の人口の半分以上がAPUの学生なのですよ。地元の人たちからは「学生さんがいるからコミュニティが成り立っている」とまで言ってもらっています。町の皆さんに学生を育てていただきながら、人口減少・高齢化の中で若い人たちの活力を地域活性化のために生かしていくことは、地方にある大学にとって大事なことだと思っています。

各大学が自らの強みを見極めてこそシナジーが生まれる
―今後の日本社会における地方私立大学の役割をどのように捉えていますか。
自分が置かれている状況や関係性の中で、シナジーを生み出していくことでしょう。そのためには、自分たちの強みやリソースなどを見極めた上で、決断力を持つことがすごく大事だと思っています。APUの場合、別府や大分、九州との濃密な関係に注目した大学づくりをして、これまで申し上げてきたような連携を進めてきました。その中で半導体国際ビジネス人材育成プログラムのように、APUの国際的な教育・研究の強みを生かせる分野も見えてきました。

―最後に、地方の大学どうしの関係性についてはいかがでしょうか。
学生たちを地元にどう貢献させるのかという視点が重要ですね。今、大分県では佐藤樹一郎知事が音頭を取って、県内の全大学と短大、高専が集まり、今後どうしたらいいのかを話し合っています。若い人を奪い合うのではなく、力を合わせて頑張りましょうという雰囲気が自然と生まれますよね。それぞれの強みを生かしながら協力していくことが、これからの地方大学には求められるのではないでしょうか。
関連リンク
- 立命館アジア太平洋大学
- APUプレスリリース「『半導体国際ビジネス人材育成プログラム』を始動」
- APUデータブック
- APU受験生サイト「金澤宏高さん(TUMUGU COFFEE STAND経営者)インタビュー」


