インタビュー

第1回「節約しながらも、内容のある永続的なつながりを」(沖村憲樹 氏 / 科学技術振興機構 特別顧問、中国総合研究交流センター上席フェロー)

2014.07.07

沖村憲樹 氏 / 科学技術振興機構 特別顧問、中国総合研究交流センター上席フェロー

「サイエンス・ハートでおもてなし 若手の交流でアジアの発展に一石」

沖村憲樹 氏
沖村憲樹 氏

「日本・アジア青少年サイエンス交流事業」がこの6月にスタートした。東南アジアの高校生、大学生、若手の博士研究員らを夏休みにかけて招待し、日本の科学技術の最先端の現場に触れてもらい、科学者たちとの交流を図るのが狙い。国の将来を担う俊英たちに日本を良く知ってもらい親睦を図ると共に、日本の国際化、グローバル化にもつなげようと一挙両得を目論んでいる。別称は「さくらサイエンスプラン」。ちょうど産地ではサクランボの実がたわわのシーズンでもある。この交流プランが将来どんな花を咲かせ、果実をつけるかが楽しみだ。発案者の科学技術振興機構顧問、沖村憲樹氏に聞いた。

―まずこのプランの概要と狙いを説明してください。

 日本の科学技術はかなり高度であり尊敬もされています。アジアの青少年たちを招いて、最先端の研究機関や大学などの研究現場で、科学者たちと議論しながら、科学技術を好きになってもらいたいのです。それぞれの国の抱える難しい課題の解決のきっかけがつかめるようになればなおさらいいですね。こうして日本への信頼や関心、理解が強まり、優秀な人材の留学の呼び水にして、アジアの国々の科学技術力の発展につなげたいのです。

 もうひとつは、日本のグローバル化の促進も考えています。積極的に国際化に乗り出している企業や大学もありますが、日本全体ではまだまだでしょう。アジアの青少年たちが国内各地に出かけて交流することで、迎える側に本格的な国際感覚を身につけてもらうことを期待したいのです。

 これは草の根運動を原則にし、日本の大学、企業や団体がアジアの若者を招く仕組みをとっています。相手側と協力しあう拠点を増やし、それぞれ活発な活動に発展させて欲しいのです。今後の友好関係にも役立つはずです。

―協力の拠点になるとはどういうことですか。

 例えば日中間には、既に日本の大学約400校が中国の大学600校と協定を結んでいます。しかし姉妹校として交流を深めている積極的なところから、単に協定にサインしただけの形骸化したところもあってさまざまです。

 さくらサイエンスプランで、日本が招きたい相手に声をかけて具体的な協力内容を描き、その関係を強化して継続発展して欲しいと考えています。末長く実のある東南アジア交流として強化したいのです。

―第1回の応募状況はいかがですか。

 予算は8億1000万円で、2000人を招くために3回に分けて公募する予定でした。ところが第1回だけで316件、3808人分もの応募があり、うれしい悲鳴を上げています。今回は応募の約半分に当たる155件、約1600人を選定しました。各地の有力大学や高専が133件、高エネルギー加速器研究機構や総合地球環境学研究所などの法人が14件、企業が堀場製作所、山下設計など8件です。なかには県立宮崎大宮高校のような有名進学校もあります。

 一方、招く国は中国が最も多く782人、ベトナム165人、タイ157人、マレーシア120人、インドネシア118人など東南アジア14カ国、1639人に上ります。ブルネイ・ダルサラームは最も少なくて3人ですが、大学院生、教員、研究者の3人の意欲は強く、きっと将来の国づくりの先導者として育つはずです。

―予算は主に旅費や滞在費に使われるのですか。

 そうです。40歳代以下の高校生、大学生、大学院生、ポスドクなどの研究者、教員らを、大学や研究室、公的な研究所、企業の研究所、日本科学未来館のようなミュージアムなどに案内し、日本の科学技術のナマの姿に触れてもらいます。

 滞在期間はだいたい1週間から10日間くらいで、研究施設の視察、講義が多いのですが、なかにはシンポジウムや研究面の実質的な打ち合わせ、本格的な共同研究を進めるものまであります。長期間の研修コースもあり、このように柔軟な協力形態を考えています。

 大学や公的機関には旅費、滞在費を出しますが、企業には基本的に滞在費を負担していただくことにしています。アジアでビジネスを進める企業には、アジアの青少年の科学の向上に貢献して欲しいからです。

 今回の応募をみると、滞在費の見積もりが極めて小額に抑えられていて驚きました。寮の利用や関係者宅へのホームステイのほか、一部の経費を負担していただくなど、節約に努めながらも内容のある交流を図ろうと工夫しているようでした。

―大学などもこの趣旨を真剣に受けとめているのですね。

 JSTも航空会社の情報を集め、なるべく料金の安いプランを利用してもらうように大学などにお願いしました。企業からは100人くらい招きたいとの希望がありました。現在、個別企業に説明を始めているところです。私の講演や訪問の機会をみて、このプランを紹介してきましたが、皆さん非常に協力的で、前向きに取り組んでいただいています。

―どんな分野への関心が高かったのでしょうか。

 主に工学系、医学、歯学、薬学、農学系が多いのですが、理学系は少ないようです。それぞれの国が抱える大気汚染や水資源問題などの環境対策技術や、感染症対策、ごみ・し尿処理、エネルギー資源開発への関心が強いですね。一方で大型の高エネルギー加速器施設や宇宙開発の関連施設の見学なども含まれています。日本の科学技術は基礎から応用まできわめて幅が広く、多様な関連施設がそろっているため、見学や勉強に格好の“センター”として期待しているようです。

 また日本科学未来館をはじめとする各地のミュージアムなどにも出かけて、さまざまな科学技術コミュニケーション学習やデザイン研修なども計画されています。

―さて、第2期募集も始まりました。

 第2期は7月18日まで募集しています。早稲田、慶応などの有力大学からの応募も期待しています。相手国にインドも入れるべきだとの声もありますが、それは来年以降に考えることにしましょう。

(科学ジャーナリスト 浅羽雅晴)

(続く)

沖村憲樹 氏
(おきむら かずき)
沖村憲樹 氏
(おきむら かずき)

沖村憲樹(おきむら かずき) 氏 プロフィール
県立千葉高校卒。1963年中央大学法学部卒、科学技術庁入庁。研究開発局長、科学技術政策研究所長、科学技術振興局長、官房長、科学審議官を経て99年科学技術振興事業団専務理事、同理事長、2001年独立行政法人科学技術振興機構理事長、12年同特別顧問、同中国総合研究交流センター上席フェロー。

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