インタビュー

第1回「地域の力をもっと学校に」(川端達夫 氏 / 文部科学相)

2009.10.21

川端達夫 氏 / 文部科学相

「人材育成は社会全体で」

川端達夫 氏
川端達夫 氏

鳩山内閣が発足して約1カ月が経過した。その間、「官僚主導から政治家主導へ」、また「コンクリートから人へ」という基本姿勢の下、今年度補正予算や来年度予算概算要求の見直しなどが、急ピッチで進められている。川端文部科学相に新政権における文部科学行政の考え方などについて尋ねた。

―日本の教育の現状について、どのような問題意識を持っていますか。

いわゆる学力の問題と体力の問題、それから社会性と、大きく3つに分けられると思います。学力も世界水準で芳しくないという指摘があると同時に、応用が利かないという傾向があるといった問題が現実にはありますし、体格はよいけれども、親御さんの世代と比べて、体力が落ちています。もう一つの社会性については、一部ではありますが、ある種の規律・規範意識、人への思いやりがないとか、公共性が薄まっているという問題指摘もあります。同時に、自然体験、キャンプしたことないとか、魚を捕ったことないとかも。私の世代はずいぶん昔ですが、今は子どもの時に自然へ接する機会がずいぶん減ってしまっているということがある、と思っています。

どうしたらいいかという方法は数多くあり、またさまざまな議論があり、現場でいろいろ苦労していることも事実です。いろいろな問題を解決するのに先生のあり方や仕組みのあり方などなどを含めて、今までの文部科学省が問題意識を持っていることは間違いありません。ただし、やり方が短期的に効果を上げているとも思えません。息長く、問題意識を持ってしっかりやるしかないと思っています。

―教師の質の向上に関してはいかがですか。

マニュフェスト的な部分で言えば、先生が子どもに接する部分で、先ほど申し上げたような問題をクリアしていく時に、先生のスキルアップという課題は共通です。われわれとしては、まだまだ詳細な議論をする必要はあるものの、一つは6年制で教員免許を与えようという議論と、今いる先生に2年間勉強していただいて、スキルアップをしてワンランク上の先生になってもらう。いわゆる研修や教育を通じて質を上げることが、間違いなく必要というのは事実だと思います。

ただ、社会性の問題や人とのコミュニケーションがあまり得意でない子どもがいっぱいいるといった問題は、先生の教育研修で深まる部分とそうでない部分があります。先生だけでなく、補完的に社会的経験のある人とか、あるいは地域の力が教育の現場にかかわっていく機会を広げていくことが大事ではないかと感じています。

―教育行政における国と地方の関係についてはどのようにお考えですか。

長い間、民主党としても議論してきました。国と地方の関係というのは、全体の地方分権のあり方の一つだとは思いますが、国が関与するのは教育の水準の維持・確保、そして一定の教育の基準を示すこと。もう一つ、教育を受けられる環境整備のための財源は基本的に国が責任を持つべきだと思っています。それを実施していく時に、県市町村という地方自治体独自のいろいろな工夫を含めて、かなりの自由度があってもいいのではないでしょうか。

その時、教育現場というのは、先生と生徒と教育委員会という形で地方自治体のかかわりがあるのが現状です。そこで、先生、生徒、PTAに加えて地域があるべきです。地域が子どもを育てるという観点から、地域が学校運営に、学校理事会というかたちでかかわっていく、一緒にやっていくというのがよいのではないでしょうか。そして、管理者、設置者としての市町村がある。教育委員会というのは、それを全国レベルも含めてきちんとなっているかどうかを監視する役割を持たせたらいいのではないかというのが、われわれが持っているイメージです。今はそういう仕組みにはなっていません。

そういうことで、よりよい教育を実現するという目標の下にいろいろな力が協力できる、総合力を発揮できるようにするためには、地域力をもっと学校に入れたいし、父兄の力も現場に活用できるようにしていきたい。そういう仕組みを教育委員会のもとにきちんとつくるために工夫していくべきだ、ということから議論をしていきたいと考えています。

―教育委員会のあり方についてはいかがでしょう。

イメージ的には、県市町村といった自治体が地域の教育の基本の責任を持つというかたちであるべきで、教育委員会がそれをチェックするという役割の方が、より実体が伴うのではないでしょうか。そうした議論を今までしてきました。

―学校現場の先生方に伝えたいことは?

教育はまさに国家百年の計、その最前線で国の礎の人材を育てているという仕事ですから、その現場に立っている皆さんの使命の大きさを誇りに思って全力で活躍してほしい。時代の変化の中でずいぶんいろんな事態を招いているということが現実にありますから、そういうことを乗り越えていくという意味でも、先生も行政も地域も父兄も合わせて前に進まなければいけないのです。ぜひ、一緒に頑張っていきましょう。

(科学新聞 中村 直樹)

(続く)

川端達夫 氏
(かわばた たつお)
川端達夫 氏
(かわばた たつお)

川端達夫 (かわばた たつお)氏のプロフィール
1945年近江八幡市生まれ。滋賀県立彦根東高校、京都大学工学部卒、京都大学大学院を修了、東レに入社、研究開発業務に従事する。86年衆議院議員初当選以来7期連続当選。衆議院災害対策特別委員会委員長、安全保障委員会委員長、議院運営委員会理事、民主党国会対策委員長、幹事長、常任幹事会議長、党副代表などを歴任。2009年9月鳩山内閣発足とともに現職。

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