「文明都市に必須な科学技術館」

中国で科学技術館活動を長い間指導し、最近では活動の場を国際博物館会議にも広げている李 象益・中国自然科学博物館協会名誉理事長が日本科学未来館主催のフォーラム「科学コミュニケーションのネットワーク構築に向けて」の講演者として来日した。中国がなぜ、どのように科学技術館活動に力を入れているのか、李氏に尋ねた。
私は1961年に北京航空航天大学を卒業し、ジェットエンジンの設計に従事した後、81年に中国国家科学技術館に転職し、副館長を務めました。当時、技術畑でキャリアのある人物が責任者として必要とされており、私自身も科学普及を大変好んでいたからです。91年から95年の間、中国科学技術協会科学普及業務部の部長を務め、全国への科学普及に取り組みました。95年から2000年には、再び中国科学技術館に戻り、第2期の建設業務を担当しております。2000年以降、中国自然科学博物館協会の理事長を務め、主に全国の科学技術館の学術交流や人材育成を推進しました。04年には国際博物館協会執行局の執行委員に選ばれました。
科学技術館は、中国でここ数年、一つの新社会教育として成果を挙げています。特に改革開放以降のここ10年では、政府の推進の下、急速な発展を遂げました。中国政府は、2000年から科学普及法、全民科学素質行動計画綱要を整備し、それ以降、さらに、全国科学技術館の発展を促進する数々の関連政策や具体的な措置を打ち出しました。例えば、かつてこのような言い回しがありました。「ある都市が、文明都市の基準を満たしたいならば、科学技術館、博物館、図書館の設置が必須である」というものです。これはただのアピールではありません。非常に具体的で実現性のある、必ず実施しなければならない計画であり、実施案なのです。こうした目標による推進の下、ここ10年で急速な発展を遂げたわけです。
例えば、昨日の会合で、ある方から経費の問題について尋ねられました。中国では中央と地方は別会計で運営されています。科学技術館の大部分は省レベル以下で建設されていると言ってよいでしょう。しかし、こうした政策が出てきた場合、各レベルの政府は予算に科学技術館の建設費用を計上する必要があります。中国の科学技術館は、主に社会公益事業のために建設されていますので、納税者は納税後、政府による恩恵を受けられます。まさにこうした理由から、博物館は一種の非営利社会公益事業の役割を果たしており、政府はこれを強力に推進しなければなりません。現在、世界各国においてもこのような事例は多数あると思います。
いったん、世界的な経済危機に見舞われると、最初に影響を受けるのは博物館です。しかし私は、長期的な視点を持つべきだと思います。なぜなら、こうした社会的機構は公衆の科学的文化的素質を高めるためのものであり、長期的に作り上げていくプロジェクトの一種とみなすべきものだからです。一時的な経済危機のような影響を受けるべきものではありません。さらに、納税者は既に税を納めているので、その恩恵に生涯あずかるべきだと思います。
中国科学技術協会の役割についても触れたいと思います。協会は1958年に成立し、若干の特別研究員を含め、全国から多数の技術者、科学者が集まっています。協会には全国的なものから、地方レベル、省、市、県の科学組織に及ぶ192の学会があります。省市県以下にも非常に系統立った組織が存在しており、科学普及、そして最終的な科学技術館建設の推進に組織的な役割を果たしています。
例えば、この協会は、建設部などの政府部門と合同で科学技術館の建設基準を制定し、科学技術館の建設について、各地域に対して指導的な役割を果たすものとなりました。つまり一定の科学規範ができたということです。中国科学技術協会のような社会的な勢力が政府をサポートし、発展を促進したと言うことができます。
第二の大きな問題として、科学センター自身の特徴について言及する必要があると思います。科学技術館科学センターは、20世紀以降の博物館の発展において、世界における科学教育の先進的理念を統括し、時代や人々の要求に基づき、創造し、刷新する精神を培い、新たな思考を啓発し、時代の要請にマッチした革新的な人材を養成するための基礎を築きました。こうした理念は、センター自身の教育的特徴から考えて、時代の要求や公衆のニーズに非常にマッチしています。例えば、双方向的な体験に参加し、科学的・知的・趣味的な科学の知識や考え方、またその手法をそれぞれ組み合わせつつ、なおかつそれぞれの地域の差異や、経済や科学技術の発展状況の差異に基づき、各センターはそれぞれの特色をつくり出しています。
このようなはっきりとした特徴により、現在、科学技術館は非常に強いバイタリティを備え、時代に必要とされています。現在、各地の科学技術館を訪れる人々の数は、いくつかの伝統的な博物館のそれをはるかに上回っています。時代の要求に合っているからです。従って、急速な発展を遂げた第二の理由は、私たちが科学技術館を発展させるという時代の要求や社会教育施設という公衆のニーズを理解し、それが客観的法則とうまく合ったということです。
第三の原因についてですが、現在、中国では巨大な社会的支持のある環境が形成されました。例えば、政府はここ数年で全国に百近くの科学技術館を建設することにより、中央、省、地方を巻き込んで巨大なマーケットを形成し、多数の企業を誘致しました。中国の企業の多数は、科学技術館の刷新と発展の問題に非常に関心を寄せており、その研究にもやぶさかではありません。科学研究院を含む高等教育機関や多数の機関も、展示物をいかに科学研究の成果を公衆が理解できるような形にできるかということについて研究しています。これは、社会を支える点で非常に好ましい働きをします。こうしたすべてのものにとって、やはり政府の支持と推進が最も重要になってくると思います。
(続く)

李 象益 氏のプロフィール
1961年北京航空航天大学卒、その後、同大学でジェット・エンジンを研究。81年中国科学技術館副館長。91年中国科学技術協会科学普及部部長。95年中国科学技術館館長。2000年中国自然科学博物館協会理事長、01年中国科学技術協会会長。現在、中国自然科学博物館協会名誉理事長、中国科学技術協会全国委員会委員。北京市人民政府諮問委員会顧問。北京大学、北京師範大学教授。04年から国際博物館会議執行協議会委員も。
関連リンク
- 日本未来科学館