インタビュー

第2回「国際的に開かれた大学に」(小畑秀文 氏 / 東京農工大学 学長)

2009.04.13

小畑秀文 氏 / 東京農工大学 学長

「テニュアトラック制の定着目指し」

小畑秀文 氏
小畑秀文 氏

若手研究者の能力をいかに引き出すかが、日本の科学技術政策上、最優先課題の一つになっている。パーマネントのポストに就けるかどうかは5年後の評価次第。その代わりできるだけ研究に専念できる環境を若手研究者に用意する、という文部科学省の若手研究者支援プログラム「テニュアトラック制」がスタートして4年目に入った。これまで採択された30大学の中で、この制度をもっともうまく活用していると評価されている東京農工大学の小畑秀文学長に、プログラムの進展状況や意義について聞いた。

―3年目ということで中間評価を受けたそうですが、これまでの成果と今後の課題はどのようなものでしょう。

中間評価ではAランク評価を受けましたが、これはテニュアトラック制度の導入が全学的な取り組みとして定着していることが高く評価された結果であると考えています。ほかの大学では、専攻あるいは研究所単位でテニュアトラック制を始めた所が多いのに対し、本学の場合、全学的取り組みとしてスタートさせたことで評価が高かったのだ、と思います。ミッションステートメントに掲げた目標の多くが前倒しで達成済みであり、最終目標も確実に達成できそうです。

現在、国立大学法人は毎年、定員を1%ずつ減らすことが義務づけられています。テニュアトラック制度を導入した場合、5年後にテニュアトラック教員の何人かがパーマネントの教員になるわけですから、学内できちんと議論を行い、受け入れの用意をしておく必要があります。大学のトップだけの判断でこのプロジェクトを進めると、現場から反発を招く恐れがあります。定員削減の上にテニュアトラック制による教員を押しつけられても困る、ということになりかねません。

本学の場合はその点を十分に考慮し、5年間に定年で辞める教員がいて、その後任に優秀な人をとりたいという意思を明確にした学科に対してだけ、テニュアトラック教員を採りました。そうした人員枠のめどが立たないところは手を挙げられなかったのです。ですからテニュアトラック教員22人は、5年後、パーマネントの教員になる資格ありと評価されたら、全員、採用されるポストが用意されているということです。大学によっては、テニュアトラック教員でパーマネントのポストに就けるのは3分の1程度としているところがあるようです。本学は全員の椅子だけは用意しました。ただし、本学の場合も22人全員が必ず5年後にパーマネントの教員ポストに就けると保証しているわけではなく、評価の結果次第です。テニュアトラックに在籍している教員は、平均的には極めて優れた方々ではありますが、何人かは評価が十分ではなく、採用されない可能性があります。

この制度の目指すところは、若手研究者がまず任期付きの雇用形態で自立した研究生活を送り、厳格な審査を受けて安定的なポストを得るという仕組みを日本にも根付かせることです。米国などでは当たり前ですから。大学にとっては研究者としての力を見る期間が5年間あるわけですから、優れた研究者を高い精度で採用できるはずです。最初の5年間は国が支援しようということで、この試みはよい制度だと我々は評価しています。将来、大学の教員全員がテニュアトラック制度による仮採用期間を経た人間で占められるようになるのが理想ですが、5年後には国の支援もなくなります。その後は、各大学が独自の人事制度として続けなければなりません。

―今後、テニュアトラック制を定着させ、どのような大学にしたいとお考えですか。

本学は、昨年度4人のテニュアトラック教員を、22人とは別に大学独自の運営費の中で採用しました。うち3人には1,000万円、一人に500万円のスタートアップ資金を用意しました。5年間の国の支援がなくなり、さらに国立大学法人の予算が厳しくなっていく中でこの制度を維持発展させていくとき、資金が大きな問題になるのは間違いありません。特にスタートアップ資金の確保が課題になると思われます。大学の運営経費で絞れるところは絞って効率化をはかり、さらに獲得した外部資金の間接経費の一部をこちらに割く、など、優れた教員の獲得にはそれなりの努力が必要になろうかと思います。

東京農工大学は、グローバル化の時代にあって課題解決能力と技術者倫理を身に着けた創造性と国際性豊かな研究者・技術者の養成を担う教育、研究の拠点大学を目指しています。海外から見て優れた研究を推進する大学に見えるようにしよう、そのためにはより優れた教員を集め、国際的に開かれた大学として留学生をもっとたくさん集め、外国人教員ももっと積極的に採用しなければ、と考えています。

2006年度に採用したテニュアトラック教員22人の中に3人の外国人が含まれていますし、新たに大学独自の予算で採用したテニュアトラック教員4人のうちにもフランス人女性が一人含まれております。外国人教員も徐々に増えていくでしょう。外国人留学生に対しても英語だけで授業を受けられ、学部を卒業できるようなコースを設ける予定です。数を増やすだけでなくレベルの高い留学生をとるために中国、タイ、チェコ、英国に海外オフィスも設けました。国内での産学連携は進んでいますが、今後、これらの海外オフィスを活用し、海外企業との連携も積極的に進めたいと考えています。

(完)

小畑秀文 氏
(こばたけ ひでふみ)
小畑秀文 氏
(こばたけ ひでふみ)

小畑秀文(こばたけ ひでふみ) 氏のプロフィール
1967年東京大学工学部卒、72年同大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学宇宙航空研究所助手(助教)、75年東京農工大学工学部助(准)教授、86年同教授。副学長、大学院生物システム応用科学研究科長などを経て、2005年から現職。専門分野はディジタル信号処理、パターン情報工学 、計測工学 。工学博士。著書に「計測・制御テクノロジーシリーズ 信号処理入門 」(共著、コロナ社)、「モルフォロジー」(コロナ社)、「音声認識のはなし」(日刊工業新聞社)など。

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