インタビュー

第2回「省エネ型産業構造への支援を」(三村信男 氏 / 茨城大学 地球変動適応科学研究機関長・教授)

2008.07.21

三村信男 氏 / 茨城大学 地球変動適応科学研究機関長・教授

「温暖化対策は2正面作戦で」

三村信男 氏
三村信男 氏

7-9日に行われた洞爺湖サミットでは、焦点だった「2050年までに温室効果ガス排出量50%削減」という目標設定が合意という形には至らなかった。しかし、「世界全体の達成目標」と性格付けられ、「ビジョンを共有」という言葉で首脳宣言に盛り込まれた。中国やインドなど新興国を加えた主要経済国会合の宣言にも、世界全体の長期目標を世界各国が持つことを是認する表現が入った。環境省の地球温暖化影響・適応研究委員会座長として、報告書「気候変動への賢い適応」をまとめたばかりの三村信男・茨城大学 地球変動適応科学研究機関長・教授に、賢い対応とは何かなど地球温暖化に対する効果的かつ現実的な対応策を聞いた。

―温暖化対策には、途上国支援という考え方が欠かせないと強調されていますが。

IPCCが昨年出した第4次報告書では、世界で特に脆弱な地域として4つ挙げられています。一つは、北極圏です。温暖化というのは、地球上で一様に起こるわけではありません。赤道地域は気温上昇が小さく、北極に近づくほど大きくなります。世界全体で4℃の上昇というと北極では8℃あるいは10℃といった気温上昇となるのです。実際に北極圏ではすでに2-3℃上昇して、北極海の海氷は目立って減っています。今世紀の半ばには、夏になると海氷が全くなくなってしまうとも言われています。

北極圏の氷が溶け、永久凍土が溶けるとそれに応じて南にいる生物が入ってきます。害虫も病原菌も入ってくる、新しい外来生物の侵入、海岸浸食、永久凍土からのメタン放出といった悪影響が心配されるわけです。

二つめは、アフリカのサブサハラといわれる地域です。ここはご存じのようにすでに水資源や食料の不足で苦労しており、それがさらに悪化するということです。

三つ目は、小島嶼(しょ)で、海面上昇とか、台風が大きくなるといった温暖化の影響で、危険にさらされると予想されます。典型的な島として、ツバル、キリバス、モリディブ、カリブ海の島々があげられます。ツバルは平均標高が1.5メートルしかないような環礁の島です。1,000メートルもの山があるフィジーのような島でも、人々はすべて海岸縁に住んでいます。重要なインフラである道路や空港もまた海岸に集中していて、気候変動に弱いところにあるわけです。

熱帯にはサンゴ礁がたくさんありますが、1-2℃の水温上昇で白化現象を起こします。こうした島国は観光収入に依存しているわけで、観光資源、国の収入源が失われ、経済が大きな問題に直面することになります。小島嶼(しょ)が、特に脆弱といわれるゆえんです。

四つめが、アジアのメガデルタです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の議論の中で浮上しました。アジアの人口は今37億人くらいですが、2100年には倍の70数億人になると予想されています。アジアの人口がどこに集中しているかと言えば、大河川のデルタです。上海、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ、カラチといった人口が数百万人を超える都市の多くは海岸にあるんですね。こうしたメガシティが今アジアに10都市くらいありますが、2050年には25以上になると言われています。

人口が2倍になり、さらにメガシティが増えて、台風が大きくなることによる高潮、さらに海面上昇や洪水の危険に直面する場所にさらに多くの人が住むことになるわけですから、社会の安全をどう確保するかが大きな問題になります。気候変動や温暖化は環境問題ですが、よい環境を残すといった問題に留まらず、社会の安全と健全な発展をどう確保するかという根本問題になっているわけです。

―具体的に日本が求められている役割はどういうことになりますか。

日本の援助の課題には、2つの面があります。まず、途上国が省エネ型の発展をするような産業技術上の支援をすることが重要です。中国やインドのように二酸化炭素(CO2)の排出量が飛躍的に増えつつあるところが、米国や日本と同じ経路で成長するのでは困ります。日本が長い努力によって省エネ型になってきている、そこへジャンプするような発展ルートがとれるように、省エネ型の産業構造を作り、エネルギー効率を改善しながら経済成長を目指す必要があります。

これからを考えると、先進国と途上国という対立軸とは違う軸が出てくるように思います。つまり、CO2の大量排出国と温暖化被害国の対立という構図です。途上国の大多数は、CO2排出は少ないのに影響は非常に厳しい被害国です。そうすると、中国、インドも途上国と言い続けることはできなくなり、化石燃料に依存しない省エネ型の産業構造や社会構造をつくることが大きな課題になると思います。

2つ目は、適応策への支援です。上でも言ったとおり、著しい影響を受けるのは途上国が多いことははっきりしています。ツバルにしろバングラデシュにしろCO2排出量は、世界の中のパーセンテージで見てみればほとんどないに等しいですね。しかし、影響は国の運命がかかるくらい大きい。そういう国が国際的に緩和策を叫ぶのは意味あることですが、彼らの国自体でできる対策となると適応策によって生き延びることしかないわけです。ですから、こうした国に対しては適応策の援助をすべきだと思います。

(続く)

三村信男 氏
(みむら のぶお)
三村信男 氏
(みむら のぶお)

三村信男(みむら のぶお)氏のプロフィール
1949年生まれ、74年東京大学工学部都市工学科卒、79年東京大学工学系研究科都市工学博士課程修了、83年東京大学工学部土木工学科助教授、84年茨城大学工学部建設工学科助教授、95年茨城大学工学部都市システム工学科教授、2006年から現職。アジア、太平洋各国の気候変動の影響評価と適応策を探る国際共同研究多数。工学博士。

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