インタビュー

第2回「宇宙航空研究開発機構はスリム化必要」(鈴木一人 氏 / 筑波大学准教授(人文社会科学研究科国際政治経済学専攻))

2008.03.27

鈴木一人 氏 / 筑波大学准教授(人文社会科学研究科国際政治経済学専攻)

「見直し迫られる日本の宇宙開発」

鈴木一人 氏
鈴木一人 氏

宇宙基本法の成立を目指す動きが活発化してきた。日本の宇宙開発のありかたを根本から見直し、国民の安全・安心に寄与するものとすることを狙った法案を、与党は既に国会に提出している。民主党も独自の法案を今国会に提出できるよう、1月に組織横断的な検討チームを立ち上げた。与党の宇宙基本法草案作りにアドバイザーとして尽力した鈴木一人 氏・筑波大学准教授(人文社会科学研究科国際政治経済学専攻)に、宇宙基本法の狙いを聞いた。

―「研究開発文化を改める」と「人類初を目指す」は、相反しませんか?

これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の在り方を見直すことを提言しているのです。というのは、宇宙開発予算は学術研究の発展を目的とした科学研究費ではないからです。そこで、安全・安心といった国民の利益にかなう施策を行うトップダウンの組織と、研究者のコミュニティから創出されるプロジェクトを行うボトムアップの組織に分けるべきだと考えています。具体的に、JAXA発足のために統合された3機関の1つ、旧・宇宙科学研究所(ISAS)で理学研究を行っている研究者は国立天文台と合体させ、その他の、旧・宇宙開発事業団を中心とした職員にはトップダウンの施策を担わせる。JAXAのスリムダウン化です。なお、月や火星などの惑星探査はトップダウンで行うべきものであり、スリム化したJAXAに取り入れられるべきだと思います。

―統合された3機関の1つ、旧・航空宇宙技術研究所(NAL)はどうなりますか?

航空分野はすでに市場が形成されており、航空関連技術は民間移転されるべきです。経済産業省や防衛省の管轄下に入るべきではないでしょうか。研究のための研究ではいけないのです。

旧・航空宇宙技術研究所(NAL)は基礎研究部門を持っていますが、例えば、米国航空宇宙局(NASA)など成熟した外国の研究開発機関では「プログラム・マネージャー化」があるべき姿となっており、基礎研究は企業や大学が行うべきものです。だから、JAXAは基礎研究を終わらせ、しっかりとしたプログラム・マネージャー化を推進すべきです。必要な研究がある場合は、JAXAが予算を獲得し、企業や大学に流せばよいのです。「JAXA-ISAS-NAL=スリム化したJAXA」が組織改編のイメージです。

―基礎研究を限られた企業に流すと不公平さが生まれる心配はありませんか?

公正さを維持するために多くの企業を育てるのには限界があります。それは、企業合併が繰り返されている欧米の例を見ても明らかでしょう。宇宙関係予算が十分でない今日に至っては、基礎研究を行う企業を決め打ちする必要があるのです。そこで、その研究が適正なコストで行われているかを判断するため、第三者の監査機関を内閣官房内につくってみてはどうでしょう。

(日本航空新聞 鈴木 孝直)

(続く)

鈴木一人 氏
(すずき かずと)
鈴木一人 氏
(すずき かずと)

鈴木一人(すずき かずと)氏のプロフィール
1970年長野県生まれ、95年立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了、2000年英国サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了、筑波大学社会科学系・国際総合学類専任講師、05年から現職。専門は国際政治経済学、欧州連合(EU)研究。主な著書・論文は、「グローバリゼーションと国民国家」(田口富久治共著)、「EUの宇宙政策への展開:制度ライフサイクル論による分析」、「経済統合の政治的インパクト」など。

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