インタビュー

第1回「モバイルFeliCaが創る新しいライフスタイル」(倉員桂一 氏 / フェリカネットワークス株式会社 取締役副社長)

2007.12.25

倉員桂一 氏 / フェリカネットワークス株式会社 取締役副社長

「日本発の技術 進化するICカードと携帯の融合」

倉員桂一 氏

非接触ICカードを組み込んだ携帯端末が、交通、通信に限らず買い物その他、日常生活のありようを大きく変えようとしている。何枚もの各種カードのみならず、小銭すら持ち歩かなくても済む。そんな時代を可能にした基本技術である携帯端末向け非接触ICカード技術方式「モバイルFeliCa」の開発とその応用に取り組んでいる倉員桂一・フェリカネットワークス株式会社取締役副社長に、モバイルFeliCa技術開発の経緯、応用の現状、さらにはICカードと携帯機能の融合がどこまで進化するかの見通しなどについて聞いた。

―FeliCa技術を携帯電話に搭載したモバイルFeliCaが誕生するまでの経緯を聞かせてください。

「FeliCa」はソニー株式会社が開発した非接触ICカード技術方式で、もともと、1988年に物流管理用タグ用途に向けて開発が開始されたものでした。カードをかざすだけで高いセキュリティを確保しつつ高速な処理が可能なこの技術が、97年、香港の鉄道乗車券に応用されました。その後も2001年に東日本旅客鉄道株式会社の鉄道乗車券「Suica」、ビットワレット株式会社の電子マネーサービス「Edy」に採用され、FeliCa技術を使ったサービスは拡大していきました。これらのサービスで使われるカードにはFeliCa機能を実現するためのFeliCa IC チップが内蔵されています。

04年7月にNTTドコモからFeliCa ICチップを搭載した携帯電話「おサイフケータイ」が発売され、モバイルFeliCaが誕生しました。「FeliCa」と携帯電話とが融合することで、カードのFeliCaと比較して新しい使い方が可能となりました。

―モバイルFeliCaを支える技術と今後の可能性についてはどうでしょう?

皆さんは、ご自分のお財布に何枚のカードを入れているでしょうか?電車やバスなどの定期券、クレジットカード、店舗の会員証、ポイントカード、クーポン券などなど。せっかくのおしゃれなお財布なのに、まるまる太って不格好という悩みも多いようです。モバイルFeliCaでは一つの携帯電話に数十のカード機能を入れることができるので、この悩みが解消されます。お店においてクレジットカードで支払うときにも、お財布から目的のカードを探して取り出す面倒はありません。おサイフケータイをお店の読み取り装置にかざすだけで簡単に支払いが完了します。

また、携帯電話の液晶表示機能で電子マネーや乗車券の残高を確認して、残高が少なければ、通信機能を使って自分の銀行口座から簡単にその場でチャージすることもできます。おサイフケータイサービスでは飛行機の乗り方も大きく変わります。例えば全日本空輸株式会社が提供しているサービスでは、おサイフケータイで空席を確認し、その場で航空券をネットで購入するだけでおサイフケータイ上のFeliCa ICチップに搭乗に必要な情報が記録されます。紙のチケットは不要で、空港のチェックインカウンターに並ぶこともなく、手荷物検査場、機内搭乗ゲートの読み取り装置におサイフケータイをかざすだけで飛行機に搭乗できます。最近では東京ゲームショーなど、イベントや公演において、チケットをネット購入すれば、チケットが郵送されるのを待つこともなく、おサイフケータイをかざすだけで入場できるサービスも拡大しています。

おサイフケータイをマンションの鍵として使うサービスも登場しています。おサイフケータイをドアにかざすだけで鍵をかけたり、開けたりできます。こうした利便性とともに、ドアには鍵穴がありませんのでセキュリティも向上します。また、携帯電話の通信機能を使って、出先からドアに鍵がかかっていることを確認したり、合鍵を家族や知人に送ったりできます。具体的には家族が鍵をもたずに遊びに来たときに、家族のおサイフケータイに自分のマンションの鍵を携帯で送って留守中先に入ってもらうなどといった使い方が想定されます。電子的な鍵なので合鍵として機能する期限を自由に設定するなど、柔軟で便利な使い方が提案されています。

―モバイルFeliCaを支える技術と今後の可能性についてはどうでしょう?

おサイフケータイ向けのFeliCa ICチップで動作するソフトウェア(モバイルFeliCa OS)は、すべて弊社で開発されました。このソフトウェアは電子マネーや乗車券・定期券など生活のインフラを支えるもっとも重要な要素の一つです。その開発において、計画通りの開発と品質の確保、安心して利用いただけるセキュリティの実現は開発企業にとって解決しなければならない課題でした。

そこで弊社ではソフトウェア開発の上流工程での品質向上に着目し、形式仕様記述手法を活用した仕様策定に取り組みました。本手法の導入は弊社で初めての試みでしたが、九州大学など国内の専門家のお力を借りることにより効果的な導入に成功しました。セキュリティについても、国内のセキュリティ評価機関と連携することで、(独)情報処理推進機構から一般的な商用利用として最高レベルであるEAL4+のセキュリティ認証を取得できました。

また、FeliCa技術方式に対応した製品間の通信における相互接続性の向上は重要な技術テーマです。その実現のために、東京大学、法政大学にご協力をいただき、数値解析による無線通信特性のシミュレーションを推進し成果をあげています。

このように多くの方のご協力で誕生したモバイルFeliCaの特長を活かしたサービスが数多く創造され、日本人のライフスタイルを変えつつあります。11月にフランスで開催された世界最大のカードショー「CARTES 2007」では、日本のモバイルFeliCa導入事例について講演し高い注目を集めました。今後もモバイルFeliCaシステムの海外展開など、日本発の技術であるモバイルFeliCaには大きな可能性が広がっていると考えております。

(続く)

倉員桂一 氏
(くらかず けいいち)
倉員桂一 氏
(くらかず けいいち)

倉員桂一(くらかず けいいち)氏のプロフィール
1957年茨城生まれ、81年東京大学工学部卒、日立製作所入社、94年半導体事業部マイコン設計部 SH マイコン第一 Grリーダ、02年半導体グループマイコンビジネスユニットIC カード本部長、03年 IT 戦略統括部エグゼクティブ、04年から現職。91年プリンストン大学電子工学研究科修士課程修了、07年先端技術ベースの経営戦略に関する研究で高千穂大学から博士(経営学)を取得。

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