インタビュー

第4回「豊かな裾野持つ八ヶ岳型大学を」(岩崎洋一 氏 / 筑波大学学長)

2007.12.14

岩崎洋一 氏 / 筑波大学学長

「ブレークスルーは高い目標設定から」

岩崎洋一 氏
岩崎洋一 氏

科学技術の発展は、実験・観測、理論をクルマの両輪に発展してきた。しかし、素粒子物理や宇宙の進化さらには人類の未来がかかっている地球規模の気候変動など、実験・観測ができない研究テーマで、シミュレーションの果たす役割が年々高まっている。さらに今後、計り知れない発展が期待されているナノ、バイオなどの分野でもシミュレーションがブレークスルーをもたらすカギになると見られている。国家基幹技術として世界最高性能を目指す次世代スーパーコンピュータの研究開発もスタートした。日本のスーパーコンピュータ開発で大きな役割を果たしてきた筑波大学の岩崎洋一学長に、このプロジェクトとその基盤となる計算科学の重要性と、目指す新しい筑波大学像について聞いた。

―国立大学法人に移行して3年が過ぎました。第一期目の中期計画も後半に入ったたわけですが、特に教育、研究面の大学改革はどのように進んでいるのでしょう?

国立大学法人法では文部科学相が定めた中期目標に基づいて大学がそれぞれ中期計画を立て、国立大学法人評価委員会の評価を受けることになっています。この第三者機関の最終評価を大学の資源配分に確実に反映する、となっているのですが、実はそこがまだ完全には決まっていません。スキーム自体の全体像がはっきりしていないわけです。本当に大学の教育、研究の質を向上させるようなシステムに作っていくのが一番のポイントで、これからが国立大学、文部科学省の知恵の出しどころだと思っています。

大学の一番の使命は、もちろん、教育と研究の質の向上です。

まず、教育に関しては、これまで教員に任せていた部分ありますが、教育をシステムととらえ「筑波スタンダード」というものを策定中です。来年3月までには発表できると思います。教育理念・教育目標を掲げ、達成させるまでの方法を大学全体として示すだけでなく、組織ごとにも明示させ、達成するためのカリキュラムを作り公表します。まず、これを第1歩として踏み出して、恒常的に改善していく仕組みを作ることが大事だと思っております。

学生支援に関しては、開学以来、力を入れています。学業の相談から、就職までワンストップ的に行うための組織をつくりました。「スチューデント・プラザ」と呼んでいます。

大学院生が増えてきています。学部の学生1万人に対し、大学院生の数は6,000人にまでなっています。大学院生というと昔は放っておかれたものですが、これからは大学として、入り口、出口を踏まえ、教育研究面とともに経済支援もする必要がある、と考えております。

研究に関しては、個人または個別の研究グループが自主的・自律的におこなうのが基本ですが、研究活動を活性化する支援体制を大学として整える必要があります。筑波大学は、開学以来さまざまな支援体制を設けてきましたが、今回「戦略イニシアティブ推進機構」というものを設けました。これは、従来の研究科とか専攻にとどまらない、分野横断的な新たな研究分野を構築し、国際的拠点をつくることを目指しています。山海嘉之教授の「サイバニクス拠点」などを戦略イニシアティブと位置づけ、大学として全面的にサポートしていこうというものです。

このシリーズでもお話したように、物理学者と計算機工学者が協力した超並列型スーパーコンピュータ「CP-PACS」の開発で、他分野の研究者が一緒にいることが大事なことは経験済みです。最近はバイオの研究者も加わっていますが、広いフロアをパティションだけで区切りをしたところで研究をしてもらっています。異なる分野の研究者が同じところにいるということが、特に若い人を育てること、分野融合研究にとって非常に重要だと考えるからです。

社会貢献にも力を入れています。昨年度立ち上げたベンチャーは8社あり、国公立大学では一番多く、3年連続でトップでした。累計では5位です。工学部、医学部はできてから30年ちょっとしかたっていないことを考えれば、歴史がない割には頑張っていると言えるでしょう。学内公募型でベンチャー育成を支援するなど、大学としてもいろいろなインセンティブを与えています。学生で経済産業省の賞を取った人物がいますが、この学生には大学が部屋を与えています。

―筑波大学の将来をどのように考えていますか。

現在、「筑波大学2020ヴィジョン」を策定中です。「2020」のネーミングは2020年から来ていますが、これから10数年先を見通した本学の将来像を描き、その実現に向けた戦略体系をまとめたものを、できれば本年中に策定したいと考えています。大学を取り巻く環境は近年著しく変化しており、その変化を見通した大学運営を行っていかなければなりません。そのためには、自らの存在意義、特色や強み、目指す方向性などを、構成員が共有し、また学外に明らかにしていくことが重要であると考えています。

また、法人化によって自主性・自立性が高まった反面、財政的に厳しい面もあり、教育研究現場では閉塞感が高まっています。そのような閉塞状態を打破し、教育研究現場が将来に向けた展望を見出していくためにも、将来像の構築が必要と考えています。

将来像として、大雑把には、八ヶ岳型を考えています。八つぐらいの研究分野で、世界から見てその頂がはっきりと見え、それを豊かな幅広い裾野がささえている。その裾野を含めて肥沃な土地で、未来を担う有為な人材、すなわち、本質を究める力、豊かな人間性、挑戦し行動するたくましさを兼ね備え、世界の多様な場で活躍し社会に貢献できる人材、を育成していく。そのような将来像を現時点では描いています。

筑波大学計算物理学研究センター
異分野の研究者が顔をつきあわせて活動している
(提供:筑波大学)
筑波大学計算物理学研究センター
異分野の研究者が顔をつきあわせて活動している
(提供:筑波大学)

(完)

岩崎洋一 氏
(いわさき よういち)
岩崎洋一 氏
(いわさき よういち)

岩崎洋一(いわさき よういち)氏のプロフィール
1941年東京都生まれ、64年東京大学理学部物理学科卒業、69年同大学院理学系研究科物理学専攻課程修了、理学博士。京都大学基礎物理学研究所助手、72年ニューヨーク市立大学物理教室研究員、75年筑波大学物理学系講師、76年同助教授、77年プリンストン高等研究所所員、84年筑波大学物理学系教授、92年筑波大学計算物理学研究センター長、98年筑波大学副学長(研究担当)、2004年4月から現職。専門は素粒子物理学、特に格子量子色力学の数値的研究。専用並列計算機QCDPAX、CP-PACSの開発で指導的役割を果たす。1994年仁科記念賞受賞。

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