インタビュー

第3回「シンプルさの追求がかぎ」(河内山治朗 氏 / 宇宙航空研究開発機構 宇宙基幹システム本部長)

2007.06.04

河内山治朗 氏 / 宇宙航空研究開発機構 宇宙基幹システム本部長

「高い信頼性と低コストのロケットを目指し」

河内山治朗 氏
河内山治朗 氏

日本が必要とする衛星などを必要な時期が打ち上げることのできる宇宙輸送システムの開発が、昨年度から始まった第3期科学技術基本計画の国家基幹技術に据えられた。ロケット開発は、長年、国家プロジェクトとして進められてきた実績がある。この時期、あらためて国家基幹技術とされたことの狙いや目標について、プロジェクトを率いる宇宙航空研究開発機構の河内山治朗宇宙基幹システム本部長に聞いた。

—次期のロケットについては、国家基幹技術の議論の時になされたのですか。

国家基幹技術にするかどうかという時に交わされた議論は、何のためにロケット開発をやっているかということです。外国の場合は、こうしたことは議論になりません。ロケットを作るのは、国の方針として決まっている当たり前のことだからです。

ところが、日本は、外国から買ってくればよいではないかという話が、少数意見としては必ずある。特に失敗したときに出てきます。ですから、そうではないですよ、という議論を、国家基幹技術にするかどうかという時にしたわけです。

外国のように日本がなっていないのは、やはりロケットが打上げに失敗したからだ、とも言えます。基幹ロケットの使命はいつでも打てるようにするということですから、結局は落ちないロケットを作って打ち続けることが重要、ということになるわけです。

—この先の開発スケジュールは、どのように。

ロケットの基本はやはりエンジンです。1段と2段のエンジンをよいものに変えていきたい。特に1段のエンジンの信頼性を大幅に上げてコストを半分以下にしたい、と考えています。今のH-ⅡAロケットの信頼性は1、2段とも同じようなものですが、2段のエンジンの方が1段に比べてシンプルだ、ということが言えます。

シンプルでないと、どういう問題があるかということですが、複雑でよく判らないところがどこかにある可能性が高い、ということです。何らかの支障を起こす原因というのは、単に設計の問題だけでなく、製作とかいろいろある。ちょっとしたミスをしたのが、表面に出ないで隠れたまま検査を通ってしまい、それが分からなかった、といったものも含まれます。

1段目のロケットエンジンは極めて高い性能を追求した結果、複雑になってしまっている。2段目ロケットのシンプルさの延長上で、1段目の信頼性も高め、コストも下げることを追求できないか、ということなのです。ただし、今よりよいものになるという保証はありませんから、今後、総合的な比較検討が必要になりますが。

いまのH-ⅡAロケットは当面使い続けるので、この信頼性は維持し続ける。同時に、将来、さらに一つ上を目指すにはロケット全体として変わっていく必要がありますから、その第一段階のスタートとして、次のエンジンのためのデータ収集、基礎試験も行っている段階にある、ということです。

やろうとしていることの二つ目は、飛行のための電気系、アビオニクス系の革新です。ロケットは工場整備から射場整備を経て打ち上げますが、これに手間と時間がかかっている。信頼性を維持しつつ運用性の向上を狙うには、どんな電気系のシステムがいいかということが大事になってきます。例えば、検査は地上設備とロケット搭載の機器を組み合わせたシステムで行っているが、地上の機能もロケットに積み込んでしまうことが考えられる。ロケット搭載の機器に比べ、地上設備の機器には老朽化した部品が使われがち、といった問題も解消でき、全体としてシンプルなシステムにもなります。

さらにネットワークの技術をうまく使って、効率的な電気系のシステムを作りたい。規模は大きいが、いい例がJRにある。自律分散ネットワークシステムというものですが、安全を司るところのシステムは、とにかく壊れては困るという考え方で作られていますから、参考になります。

三つ目は材料系の革新です。もっと安くて軽いものないかという。現在のアルミ主体から、基本的には複合材化がどこまでできるか、ということになります。これは航空機も同じで、すべて複合材料にできないかという形になりつつある。ロケットも材料の革新を狙おうということです。

四つ目は、設備との効率的な整合性をもう一度考えてみようということです。ロケット製造設備だけでなく、試験設備、打ち上げ設備について、これまでの経験を基に、考えてみようということですね。

(続く)

河内山治朗 氏
(こうちやま じろう)
河内山治朗 氏
(こうちやま じろう)

河内山治朗(こうちやま じろう)氏のプロフィール
1970年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、宇宙開発事業団入社、98年宇宙輸送システム本部宇宙往還技術試験機プロジェクトマネージャ、宇宙輸送システム本部HOPE-Xプロジェクトマネージャ、2002年宇宙輸送システム本部H-ⅡAプロジェクトマネージャ、03年独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙基幹システム本部H-ⅡAプロジェクトマネージャ、05年宇宙基幹システム本部事業推進部長、06年理事・宇宙基幹システム本部長

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