インタビュー

第2回「基本に忠実なロケットを」(河内山治朗 氏 / 宇宙航空研究開発機構 宇宙基幹システム本部長)

2007.05.28

河内山治朗 氏 / 宇宙航空研究開発機構 宇宙基幹システム本部長

「高い信頼性と低コストのロケットを目指し」

河内山治朗 氏
河内山治朗 氏

日本が必要とする衛星などを必要な時期が打ち上げることのできる宇宙輸送システムの開発が、昨年度から始まった第3期科学技術基本計画の国家基幹技術に据えられた。ロケット開発は、長年、国家プロジェクトとして進められてきた実績がある。この時期、あらためて国家基幹技術とされたことの狙いや目標について、プロジェクトを率いる宇宙航空研究開発機構の河内山治朗宇宙基幹システム本部長に聞いた。

—自分で飛べるロケットというと、素人から見るとだれでも考える当たり前のことのようにも見えますが。

確かに昔のロケットは、ブースターなどついていませんから、自分で飛び上がっていたわけです。大型化するにあたり、技術的な制約で固体ロケットブースターを付けるという形になったのでは、と思われますが、さらに進化させてどのようなロケットにするかという計画が不透明だったのです。ロケット技術の進歩があって再びこういう考え方出てきたとも言えます。もう一つ高いレベルで能力のよいもの、低コストのものをつくろうという。そういう意味では、基本というのは非常に大切ですね。

—有人まで見越したロケットとなるとさらに難しい技術課題が生じると思いますが。

信頼性と安全性の向上ということに尽きます。絶対ということはあり得ないが、それに向かって努力を続ければ、絶対に落ちないところへかなり近づけるのでは、ということです。落ちないという評判のロケットはあるのです。米国のアトラスロケットは、80回連続成功しています。これに並ぶようなH-ⅡAを作り維持向上させて行く中で、次の物をつくれば有人にも対応できる信頼性、安全性の向上も図れると考えています。

具体的にとなるとエンジン、構造いろいろあるが、そのテーマは分かっています。それらが「自分で飛べる落ちないロケットにする」という言葉にこもっているのです。

一つは、何が起こっているかをちゃんとつかむことが大事になります。今までのロケットのつくりかたは、経験的に余裕をとって設計値の2倍にしたら大丈夫、というようなことで確認のための試験をやっていた。2倍にしたらなぜ大丈夫か、ということをまず考えよう。真実にどれだけ迫れるか、メカニズムにどれだけ迫れるか、エンジンの中で起きていることをどれだけつかめるか。有人ロケットにつなげる技術にするには、今まで経験でやっていたことを知識、技術にすることが大事になります。

もう一つロケット技術の開発は時間がかかるという問題がある。そのため、知識を形にすることが大事です。経験を意味ある知識とし、知識を意味ある技術にするという形にすることが大事。今までのように頭の中に入っている経験だけでは駄目なのです。

例えば冗長化したら信頼性が高くなるということがよく言われます。しかし、それは一つの系統がきちんとしていることが基本。その上で3重系にすることの意味があるのであり、それには現象にどれだけ迫っているかが重要です。それをベースにしないでいい加減なもので3重系にしても、いっぺんに3つとも壊れてしまうということになる。こうした原則的なところが大事だということを教えてくれたのが、H-Ⅱロケット8号機とH-ⅡAロケット6号機の失敗の教訓です。

経験を知識にという教訓もそのときにできました。何故にいいのかを考えることがポイント。それが将来につながる道です。開発というものは時間がかかるので、形として残しておかなければならないという流れになっています。

実は、米国も昔はほとんど経験重視の開発だったようですが、今いったようなことは、1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」の事故の後に始まったことです。日本はH-Ⅱロケットの8号機事故の後から始まったので、ちょっと差があるが、頑張って追い越したいと考えています。

(続く)

河内山治朗 氏
(こうちやま じろう)
河内山治朗 氏
(こうちやま じろう)

河内山治朗(こうちやま じろう)氏のプロフィール
1970年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、宇宙開発事業団入社、98年宇宙輸送システム本部宇宙往還技術試験機プロジェクトマネージャ、宇宙輸送システム本部HOPE-Xプロジェクトマネージャ、2002年宇宙輸送システム本部H-ⅡAプロジェクトマネージャ、03年独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙基幹システム本部H-ⅡAプロジェクトマネージャ、05年宇宙基幹システム本部事業推進部長、06年理事・宇宙基幹システム本部長

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