インタビュー

第3回「中・高校生にもっと科学の話を」(ブライアン・コックス 博士 / 高エネルギー分子物理学者)

2007.04.12

ブライアン・コックス 博士 / 高エネルギー分子物理学者

「分かりやすく科学を伝える」

ブライアン・コックス 博士
ブライアン・コックス 博士

科学や技術が進歩するにつれ、その本質を理解するのは、一般の人間にとってますます困難になっている。一方、十分な研究、開発費を公費でまかなうには、一般の人々(納税者)の理解がますます欠かせない。さらにこの問題を放置していると、科学者や技術者になろうとする若者たちが、ますます減ってしまう恐れがある。

科学をやさしく解説する科学者として著名な英国人の物理学者、ブライアン・コックス博士が、科学コメンテーターを務めたSF映画「サンシャイン2057」(注1)の宣伝のために来日した。同博士に、分かりやすく科学を伝えることの意義について聞いた。

—日本では、若者の理科離れが心配されています。ロックミュージシャンを経て、物理学者になったいきさつを聞かせていただけますか。

子どものころから天文学に興味があったのです。生まれたのが1968年で、その年のクリスマスイブにアポロ宇宙船が、初めて月の裏側を回って、月の向こう側から地球が見える映像を送ってきました。翌年の69年が、初めてアポロ宇宙船が月面に着陸した年です。

父から後で聞いたことですが「お前は赤ん坊なのに、いつもアポロ宇宙船が映ったテレビを見ていた」というのです。もちろん、私は何も覚えていませんが…。「お前にはそんな原体験があるのでは」と父は言います。その後も、宇宙関係のテレビ番組は必死で見たものです。

11歳で中学生になって初めて物理を習い、その面白さにのめり込みました。ニュートン力学を含め、宇宙を説明するのに数学が一番分かりやすい。それに気づかされたのが、私が科学に興味を持った一番の基本だと思います。物理に一生懸命のあまり、第一外国語のフランス語で落第点をとったことを思い出します(笑い)。今でも語学は不得手です。

縁があってロックの世界も経験しましたが、ロックスターという華やかな誘いを受けたら、17歳という年ごろで、断る人間などいないのでは。5年ほど寄り道して楽しみ、もともとやりたかった天文学・物理学の勉強に戻ったということです。

—なかなかまねのできることではないと思いますが…。科学離れの話に戻ります。日本では若者より、大人の科学離れの方こそ深刻という声すら聞かれます。英国ではどうでしょう。

英国でも科学を専攻する学生が減っていること、科学に興味のない大人が増えていることが、政府の心配事になっています。私のように科学を説明する人間に助成金を出して積極的に活動してもらい、学生に科学の勉強をする気にさせようとする試みが始まっています。

英国の場合、16歳という年齢が一つの節目です。職人の世界に進むか、大学を目指すかという選択の時期だからです。この時期に科学の話をするのが大事ということになりますが、一番の適任者は実際に研究をしている人です。研究者は自分の時間を割いて話をするので、その分の報酬は払う。あるいは、研究助成金を出す際に、一定の時間を中学校や高校へ行って生徒に話をすることを条件にすることもしています。また、そうすることで研究助成金を取りやすくなるということも…。

大学の先生が、中学や高校に行って科学の話をしないと、大学への補助金も減らされる。そんなルールができているのです。

—博士もこれからそのような予定があるのですか。

映画の仕事にかかわっていたので、今は早く研究生活に戻りたいという気持ちです。今は、ちょっと余裕がありません。ただ、今回、映画にかかわったことは、限られた数の学校へ行って私が話す以上の意味があったのでは、と思っています。映画という媒体を通すことで、若い人が科学に興味を持つことに貢献したのでは、と。

むしろ私より若い研究者に、中学や高校に出かけてほしいですね。

(完)

ブライアン・コックス 博士
(Brian Cox)
ブライアン・コックス 博士
(Brian Cox)

ブライアン・コックス(Brian Cox)博士のプロフィール
1968年英国生まれ、キーボード奏者としてロックバンドを編成、世界中をツアーする青春時代を送った後、物理学の世界に。マンチェスター大学で物理学の学位を取得、2005年から英王立協会大学研究フェローシップを与えられ欧州原子核研究所(CERN)で研究生活を続けている。この間、テレビやラジオのプレゼンターやキャスターとしても数多くの番組に出演するなど、積極的な科学の啓蒙活動に対し、02年にエクスプローラーズクラブのインタナショナルフェローに選出され、06年にはロード・ケルビン賞を授与された。

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