インタビュー

第3回「市民のための科学技術に」(山本良一 氏 / 東京大学 生産技術研究所 教授)

2007.01.16

山本良一 氏 / 東京大学 生産技術研究所 教授

「持続可能な地球目指して」

山本良一 氏
山本良一 氏

CO2(二酸化炭素)の排出削減をはじめ、持続可能な地球を目指す動きが世界各地で進められている。2006年の先進主要8カ国首脳会議(G8サミット)には、G8各国とブラジル、中国、インドの学術会議が連名で、G8首脳あて早急な温暖化対策を求める提言を出した。
この12月になって、2040年の夏には北極海の氷はほとんど消失するという衝撃的な予測が、米国の研究チームから発表された。「温暖化対策はすでに手遅れかも」。悲観的な声も研究者から聞かれ始めている一方、国内の企業や一般市民の危機意識は、それほどでもないように見える。

循環型社会、脱温暖化社会を求め、早くから積極的な研究活動、社会への発信を続ける山本良一・東京大学生産技術研究所教授に、今、日本の社会、国民に求められているのは何か、を聞いた。

—研究者の役割が大きいということでしょうが、この点についてもう少しお話しください。

2005年12月にノーベル賞受賞者3人を含む米国の著名な経済学者25人が、「温暖化は確実に起きている。原因はわれわれの経済活動にある。すぐ行動を起こさなければならない」という共同声明を発表して、ブッシュ大統領に、地球温暖化防止に真剣に取り組むよう求めました。

カナダ・モントリオールで、ポスト京都議定書交渉が開かれる機会をとらえての行動です。研究者たちが、個人レベルで立ち上がる。それが米国の強いところです。

英国も、ブレア首相が、2006年2月に「気候変動に対して7年以内に重要な政策決定をしなければ手遅れになるだろう」と述べていますが、こうした首相発言の背景には、有名な気候研究所の存在があるのです。150人もの研究者を擁し、続々とすばらしいレポートを出しています。

日本では、全くそういう動きないでしょう。例えば宗教団体が「温暖化対策は生ぬるい」と主張したような話は聞いたことありませんし、日本の経済学者が「二酸化炭素の排出権取引を早くやれ」などと言うのも聞いたことはありません。

理工系の人間は何をしているのか、と言われそうですが、逆に「日本の研究者は、研究費をもらうために温暖化問題を深刻化している。マッチポンプではないか」といった批判が、科学者内部からあります。

—主要国の学術会議会長が、2006年7月のサンクトペテルブルグのG8サミットに向けて温暖化対策の重要性を訴える共同声明を発表していますね。

2005年6月にも、英国のG8サミット(先進主要8カ国首脳会議)を前に、G8にブラジル、中国、インドを加えた11カ国の学術会議会長が共同声明を発表し、温暖化対策の重要性をアピールしています。

共同声明の重要な点は「世界の気候のような複雑なシステムを理解しようとする場合、必ずある程度の不確実性を伴う。だが、今や大幅な地球温暖化が起こりつつあることには強い根拠がある」ということと、「ここ数十年の温暖化の大半は、人間の活動に起因している可能性が高い」と指摘していることです。

幸い世界の動きを見ると、科学者の社会的責任が強く叫ばれるようになっています。1999年に、ユネスコと国際科学会議の主催で、世界の科学者が集まるブダペスト会議が開催されました。

この会議で採択された宣言では、市民のための科学技術、市民そのものが科学技術の発展に影響を及ぼさなければいけない、ということがうたわれました。

日本の科学者は中立的な立場を装って、研究費だけをもらい、権威的な発言をするけれど、市民に対する情報開示もしない。こうした批判を受けないよう、科学者が変わらないといけないのです。社会のあらゆる人々や組織が取り組まなければならない気候変動との戦いのためにです。

山本良一 氏(やまもと りょういち)
山本良一 氏(やまもと りょういち)

山本良一(やまもと りょういち)氏のプロフィール
1969年東京大学工学部冶金学科卒業、74年同大学院博士課程修了、89年同先端科学技術センター教授、2001年同国際・産学共同研究センター長などを経て、04年から現職。文部科学省の科学官も兼ねる。環境への影響に配慮した材料、エコマテリアルの概念を提唱するなど、早くから環境負荷の小さな社会への転換を唱えてきた。ISO/TC207/SC3(環境ラベル)日本国内委員会委員長など社会的な活動は多方面にわたる。01年度にスタートした科学技術振興機構社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」社会技術研究開発センターの公募型プログラム「循環型社会」の研究総括も務める。

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