インタビュー

第4回「遊び場回復に公的資金投入も」(仙田 満 氏 / 日本学術会議「子どもを元気にする環境づくり戦略・政策検討委員会」委員長/環境建築家)

2006.12.12

仙田 満 氏 / 日本学術会議「子どもを元気にする環境づくり戦略・政策検討委員会」委員長/環境建築家

「こどもに安全で楽しい遊び場を!」

仙田 満 氏
仙田 満 氏

「人生にとって必要な知恵は、すべて幼稚園の砂場にあった」。米国の作家、ロバート・フルガムは書いている。

しかし、子どもたちの遊び場は、都市、地方を問わず急速に失われている。外で遊べない子どもたち、外で伸び伸び遊んだ経験を持たないまま大きくなってしまった大人たち。そんな人間が増えてしまった日本社会は、どのようなツケを負わされるのか。

仙田 満・日本学術会議「子どもを元気にする環境づくり戦略・政策検討委員会」委員長(東京工業大学名誉教授)に、子どもに遊び場を戻してやることの大切さと、対応策を聞いた。

—車が入ってこない中庭付の集合住宅がよいというのは、遊び場に不自由しなかった中高年者として理解できますが、実現性はどうでしょうか。

都市再生機構の幕張ベイタウンに、中庭型の集合住宅が造られています。しかし、ほかには普及していません。利益率が低いので、デベロッパー(宅地開発業者)がついてこないのです。

子どもの成育に適した低層高密の中庭型集合住宅という方向に、日本の住宅政策を変える必要があります。中庭は、公園として利用できるのですから、公的な資金を入れることは可能だと思います。

そもそも、子育て、子育ちという観点から住宅開発の評価がなされていない、評価基準になっていないのがおかしいのです。住宅だけでなく、道路のつくり方にも、子どもの安全や遊び、成長といった観点が取り入れられるべきです。

日本の集合住宅団地では、駐車場はほとんどが地上につくられていますが、先進国では地下がほとんどです。確かに、建設費は高くなります。1台当たり500万円から1000万円かかるでしょう。しかし、駐車場は、車1台あたり30平方メートルもの土地を使っているのです。その面積分の公園を新たにつくることに比べたら安いはずです。

補助金などの公的資金を入れても、駐車場は地下に移し、地上面は子どもたちの遊びやスポーツ、自然の場に変えなければなりません。

都市開発には、子どもたちがもっと緑地とふれあうべきだ、という観点が大切です。例えば横浜の場合、緑被率は都心部で10%前後、周辺部で30%くらいです。これを50%くらいにすべきです。

—子どもたちに遊び場を取り戻してやるには、きちんとした政策が必要ということですね。

子どもたちに自然、集団生活の体験をさせるために、昔は林間学校というのがありました。兵庫県では全県の小学生を対象に「自然学校」という経験をさせています。5泊6日ですが、これでも大きな効果があると思います。

戦争中は、学童疎開というものがあり、都会の子どもたちが田舎で暮らし、そこで学んだことは多かったのです。今の日本の子どもたちのほとんどは集団生活の体験がなく、社会性の欠如という問題も、その結果とも考えられます。都市に住む小学校高学年の子どもたちに、学童疎開のような体験を義務づけるべきではないでしょうか。1泊2日といった短い期間ではなく、3カ月とか半年、できれば1年といったような。

いま、地方の過疎地域は、大変なことになっています。集落が崩壊の状況にあります。子どものころ、地方で長期間過ごしたということになれば、人は2つのふるさとを持つことができます。大人になっても思い出は残り、都市と地方の交流がなされるに違いありません。地域交流の基本は人ですから。

兵庫県立但馬自然学校 (提供:仙田 満 氏)
兵庫県立但馬自然学校 (提供:仙田 満 氏)
兵庫県立但馬自然学校 (提供:仙田 満 氏)
兵庫県立但馬自然学校 (提供:仙田 満 氏)

仙田 満 氏
仙田 満 氏

仙田 満 氏のプロフィール
1964年東京工業大学建築科卒業、68年、環境デザイン研究所を創設。82年「こどもの遊び環境の構造の研究」で学位(工学博士)取得。84年琉球大学工学部教授、88年名古屋工業大学教授、92年東京工業大学工学部・大学院教授、2005年 (株)環境デザイン研究所会長、同年日本学術会議会員。大学卒業直後から子どもの遊びについて関心を持ち続け、著書、論文多数。設計したこどもの国、科学館、博物館なども数多い。

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