「再び世界一のスパコンを目指して」
名実ともに世界一のスーパーコンピュータ作りを目指す国のプロジェクトが動き出した。
「次世代スーパーコンピュータの開発と利用」で、国の第3期科学技術基本計画の中では国が集中的に投資して推進する「国家基幹技術」としても位置づけられている。
開発と運用の主体となる理化学研究所の渡辺 貞(ただし)プロジェクトリーダーに目的や展望を聞いた。
—ソフトウエアはどのようなものが必要になりますか?
まず、基本ソフト(OS)ですが、大規模システムですから、全体が休むことなく効率良く動いてないといけません。このためにアプリケーションの実行において一部のプロセッサーだけが動いているのではなく全体が動いていないとまずい。
またプロセッサーの演算性能だけではなく、プロセッサー間でも大量のデータが行ったり来たりしますので、それをコントロールする技術が必要となります。
それから信頼性も重要です。システムの一部がダウンでしても全体がダウンしないようにしなければなりません。
アプリケーション(応用)ソフトですが、本体は何千、何万のプロセッサーの集まりで超並列となっています。ところが、今ある応用ソフトはそこまでの超並列を想定していませんので新しい効率の良いものを開発しなければなりません。
シミュレーションはあくまで予想なので、出た結果を実際の現象と比較して検証する方法も考えなければなりません。
—次世代スパコンに一番、期待しているのはどんな分野でしょう?
アプリケーション分野として大きくナノテクノロジーとライフサイエンスの2つをターゲットにしています。
「ナノ」は分子科学研究所(愛知県岡崎市)を拠点として、さらに3分野、「エネルギー」、「生体物質」、「情報機能・材料」でのブレークスルーを目指しています。
もう一つの課題はリーク(漏れ)電流です。半導体チップはトランジスタをたくさん詰め込んで計算を速くするためには回路を微細化しなければなりません。と「エネルギー」では、セルロースからエタノール(エチルアルコール)を作る新しい触媒の開発に期待しています。エタノールはガソリン高騰のなかで世界的に注目されています。これがセルロースを主体とする稲ワラなどの廃物、あるいは建築から大量に出る廃材から作れれば、今、話題のイノべーションとなるわけです。
「ライフ」(次世代生命体)は一口で言えば、「人間丸ごとシミュレーション」を目指します。といっても簡単にはいかないので、「タンパク」、「細胞」、「器官」とスケールで分けています。例えば「全血流シミュレーション」で動脈瘤を予測したり、実際の手術に役立てるといったことも期待できます。
さらに、総合的なことを申し上げれば、これからの人材開発ですが、日本ではそれぞれの分野で優秀なスペシャリストはいます。しかし、計算機も知っている、アプリケーションも判る、実際の物理現象も理解しているといった各分野の橋渡しができるマルチ人間は少ないので、こうした若い人を養成していく必要があると思います。
いずれにせよ、オール・ジャパンの開発なので広く使っていただくスパコンを目指します。
渡辺 貞氏のプロフィール
1968年東京大学大学院修士課程終了。専門は電気工学。68年日本電気入社。82年よりスパコン開発に従事。2003年日本電気ソリューションズ開発研究本部長。05年日本電気退社。06年文部科学省研究振興局研究振興官。06年8月より現職。1998年ACM/IEEEエッカート・モークリー賞受賞。2006年シーモア・クレイ賞受賞。