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国民の健康・医療の推進を3省一元化の研究開発システムで(菱山 豊 氏 / 内閣官房 健康・医療戦略室 次長)

2015.02.19

菱山 豊 氏 / 内閣官房 健康・医療戦略室 次長

第8回オール北海道先進医学・医療拠点形成シンポジウム特別講演「医療分野の新たな研究開発体制について」(2015年2月4日)から

内閣官房 健康・医療戦略室 次長 菱山 豊 氏
菱山 豊 氏
(提供:北海道臨床開発機構)

 製薬や医療機器産業は世界的に注目され、日本の市場規模は約1割と言われている。日本のようにさまざまな学問があってこその科学力の成果だと思う。まさに研究開発主導型・知識集約型の産業であり、超高齢社会を迎えるわが国において、さらなる活性化が求められている。

 世界最先端の医療技術・サービスを実現し、国民や患者に効率よく届けるために何が課題か。どのような取り組みが必要か。協議を重ね、2014年5月「健康・医療戦略推進法」と「独立行政法人日本医療研究開発機構法(AMED*)」が成立した。同機構は今年4月1日に発足する。
*AMED:Japan Agency for Medical Research and development

健康長寿社会をめざす「健康・医療戦略」

 首相を本部長とする健康・医療戦略推進本部が政策を立案して閣議決定する。新産業の創出(健康増進・予防、生活支援関連産業の市場規模の拡大)、医療のICT化などを柱に、推進本部は中期目標への提言も行う。2014年7月には「医療分野研究開発推進計画」を発表した。PDCAサイクルのように“基礎研究から臨床→医療現場での利用→多数の患者で効果を検証→評価”の流れが回っていく形を考えている。その中でアンメット・メディカルニーズ*を見つけ、新たな基礎研究が生まれるのではないか。
*アンメット・メディカルニーズ:必要とされているが、まだ有効な医薬品や治療法がない医療ニーズ

 課題として、推進計画は「基礎研究では論文後の展開に対するマネジメントが不十分。臨床研究ではデータの管理、倫理等の研究支援体制が不十分。企業の規模が小さくベンチャー企業が不足。国の縦割り行政による研究支援体制」を挙げている。国の政策で全て解決できるものではないが、しっかり対応していき、産業活動のご努力をいただければと思う。

 最近の抗がん剤や自己免疫疾患の薬、例えばALK阻害剤、抗PD-1抗体薬でも先端的な科学技術を駆使したアカデミアの研究が基になっている。それをいかにシステマチックに実用化していくかが、AMEDの設立につながった。

(独)日本医療研究開発機構

 慶應義塾大学医学部長の末松誠氏が理事長に指名され、300人くらいの規模だ。首相が理事長や監事を任命し、推進本部が医療分野の研究開発関連予算の配分を総合的に調整する。また、推進計画に基づいた運営をしていくので国の政策が反映される。戦略推進部の各プロジェクトと、他の5事業部(産学連携、国際事業、バイオバンク、臨床研究・治験基盤、創薬支援戦略)との「縦横連動」効果を期待している。

 そして文部科学省・厚生労働省・経済産業省の3省が一緒に9つの研究開発プロジェクト*を始める。先ほど医薬基盤研究所創薬支援室の榑林陽一室長のご説明にもあったように、プロジェクトごとに具体的な達成目標と数値目標を明記している。
*1.医薬品創出 2.医療機器開発 3.革新的な医療技術創出拠点 4.再生医療 5.オーダーメイド・ゲノム医療 6.がん 7.精神・神経疾患 8.新興・再興感染症 9.難病など

 研究資金が機構に一元的に集約され、ひとつの法人だから情報をシェア・活用しやすくなり、全体を俯瞰しながらプロジェクトを進めることができる。機構は研究者らとの間で委託契約などを結ぶが、それぞれプログラムディレクターを中心とした課題設定、採択、成果の把握、評価、そして評価の活用まで、研究マネジメント体制を整備する。研究における不正の防止、不正が起きた場合の対処ほか監査機能を含め、制度づくりを考えなければいけない。あまり融通が利かなくて研究が止まってしまっては困るので、その辺のバランスも課題だ。

 日本の2015年度の予算案のうち、機構分は1,248億円。それに内閣府の「科学技術イノベーション創造推進費」から175億円が加算され1,400億円強になる。2013年度は約1千億円だったので4割近く増えている。

 いま機構の中でもゲノム関係の研究の大幅な見直しを検討している。バイオバンクジャパン、東北メディカル・メガバンクなどの連携を進めていく。おりしも1月30日、オバマ大統領が “Precision Medicine Initiative (精密医療イニシアティブ) ”の具体案を発表した。米国の国家予算案に2億1,500万ドルを計上、100万人以上のボランティアによる全国的コホート研究*の展開、データの共有などが盛り込まれている。
*コホート研究:一定の地域・集団を長期間観察し、疾病の発生と要因の関連を調査する

 アカデミアと産業界の皆さんがうまく連携・協力していけるようにするのが機構の使命の1つだ。「日本の企業は日本の大学の成果に関心が薄いのではないか」あるいは「大学は知財に対する意識が低いのではないか。特許も穴だらけで使えない」という声を聞く。「大学にも結構面白い研究成果があって海外の企業が強い関心を示している」とも言われる。

 シーズ(製品になりうる材料や技術)は日本発でなくとも、アカデミアの側も世界を相手にした連携がありうる。実際に研究をするのは大学であり、製品開発をするのは企業である。ぜひアカデミアも産業界も日本医療研究開発機構を活用していただきたい。

     ◇

 本日のシンポジウムの報告に、複数の会社が関わって1つの医療機器の薬事承認を取るという研究があった。複数の技術が関係するのは医療機器の特徴であり、こういうことがどんどん進められるとよい。橋渡し研究は毎年各地で実績を挙げている。全国の先生方のご努力や患者さんを思う情熱があったからこそであり、臨床研究から保険収載にいたるまでいろいろな専門家が集まった成果だと思う。こうした動きを加速していきたい。

 研究には使命感だけじゃなく、モチベーションを強く持ってもらうことが必要だ。特に若い方々には、研究は「役に立ち」かつ「面白いんだ」と知っていただきたい。本日の成果発表のように感動を与えるようなプレゼンテーションをどんどん広めていくと、若手の医師らがとても良い刺激を受けるのではないだろうか。

(サイエンスレポーター 成田優美)

内閣官房 健康・医療戦略室 次長 菱山 豊 氏
菱山 豊 氏
(ひしやま ゆたか)

菱山 豊(ひしやま ゆたか)氏のプロフィール
1985年東京大学医学部保健学科卒業後、同年科学技術庁に入庁。95-98年在ドイツ日本大使館一等書記官(科学技術・環境担当)。2001-03年文部科学省生命倫理・安全対策室長(ヒトゲノム、疫学、クローン技術などに関する各種指針や遺伝子組み換え技術に関する法案作成)。政策研究大学院大学教授、日本学術会議事務局参事官を経て、07年文部科学省研究振興局ライフサイエンス課長(ヒトiPS細胞研究、脳科学などライフサイエンス政策に取り組む)。文教施設企画部計画課長、科学技術振興機構経営企画部長、文部科学省研究振興局振興企画課長、同省大臣官房審議官(研究振興局担当)などを歴任、13年10月から現職。著書は『生命倫理ハンドブック』(築地書館)、『ライフサイエンス政策の現在』(勁草書房)。

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