森林・林業活性化に関する公開講座「『気候変動枠組み条約交渉』について-ポスト京都議定書に向けて」(2009年8月5日、日本林業協会主催)講演から
気候変動枠組条約・京都議定書の第一約束期間が切れる2013年以降の新たな枠組みについては、年末の気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)での合意に向けて国際的な検討作業が進んでいる。特別作業部会などで大きな議論になっているのが、森林の二酸化炭素(CO2)吸収量にかかわる話だ。京都議定書で国ごとに定められた温室効果ガス削減目標の達成には森林によるCO2吸収も含めてよいことになっており、これは2013年以降の第2約束期間においても変更ないという合意ができている。
ただし、吸収量の算定方法についてはいろいろな案が出されている。日本は、大きな変化は望まない立場から、現状と同じグロス・ネット方式を主張している。これに対して欧州連合(EU)はネット・ネット方式を主張してきた。日本は人工林の高齢化で国内の森林のCO2吸収量は年々低下しており、ネット・ネット方式ではこれを排出と算定されてしまう。森林が排出源とされると国内施策上、影響が大きい。
EUは、さらにBar(基準値)を各国が設定し、実績の吸収量との差を利用可能とするという新しい提案をしてきた。結局、現在7種類の方法が算定方法のオプションとして検討されており、年末のCOP15で決着させることになっている。
この交渉において日本代表団は中心的な役割を担っている。森林吸収量算定において日本がしっかりした仕組みをつくって着実に進めているという高い評価が背景にあるからだ。私の見方では、国内の森林吸収源をどうするかの交渉は着実に進捗している。ただし、楽観は禁物ということだ。
もう一つの大きな論点が「途上国の森林減少・劣化の削減(REDD)」である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次報告書は、森林による地球温暖化緩和策の潜在量の約65%は熱帯にあり、約50%が森林減少の削減と劣化の防止によって達成可能としている。しかし、森林減少と劣化は逆に進んでいるのは確か。大気中CO2の人為的な増加の20%は途上国の森林減少と劣化によるといわれている。
京都議定書は先進国の温室効果ガス削減目標を決めたもので、途上国の森林減少を削減する仕組みはない。森林減少・劣化によるCO2排出を削減すればインセンティブ(報償)が得られる仕組みをつくろうというのがREDDの議論だ。
ところが昨年12月ポーランドで開かれた気候変動枠組条約第14回締約国会議(COP14)で、決定文書に保全、SFM(持続可能な森林経営)といったことが加わり、REDD方法論が多様で複雑になってきた。さらに、基礎となる森林モニタリングシステムを現状では多くの途上国は持っていない。技術的に不確実な部分が大きく、政策の議論をするまでに達していないのが現状といえる。
REDDでまさに議論となっているのは、誰がお金を支払うかということ。REDDを入れようとしているEUの考えは、途上国で削減した森林の減少・劣化をクレジット化し、それを買ってEUの排出削減量に上乗せしていこうということだ。事実、EUの排出削減中間目標は途上国から購入するクレジットを想定したものになっている。米国も議会で議論されている法案の中に「インターナショナル・デフォレステーションによるオフセット」という文字が出てくる。こちらもREDDをクレジット化し、それを買ってあてる排出量も中期目標に含める、と読める。
しかし、途上国に森林の減少・劣化を削減した報償としてお金が支払われた場合、それがきちんと行き渡るのか。分配のルールがないところでうまく機能するだろうか、という心配もある。仕組みのところまで議論は進んでいない。
提案されている手法を適用するには、まずは技術開発、能力開発を進めながら、実証的な取り組みを積み重ねることが必要。そこで得られる知見を仕組みづくりに反映させるべきだ、というのが私の考えだ。
REDDも年末のCOP15までに内容を検討するとなっているが、COP15がむしろDEDDの始まりと言えるのではないだろうか。
松本光朗(まつもと みつお)氏のプロフィール
名古屋大学卒。専門は環境影響評価・環境政策、林学・森林工学。農学博士。IPCC第4次評価報告書第3作業部会報告書共同執筆者。気候変動枠組条約の2013年以降の枠組みについて検討している特別作業部会の議論にも参加。