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変化を重要な方向に導け(デニス・メドウズ 氏 / 2009年日本国際賞受賞者、ニューハンプシャー大学名誉教授)

2009.05.05

デニス・メドウズ 氏 / 2009年日本国際賞受賞者、ニューハンプシャー大学名誉教授

受賞記者会見(2009年4月20日、国際科学技術財団主催)から

2009年日本国際賞受賞者、ニューハンプシャー大学名誉教授 デニス・メドウズ 氏
デニス・メドウズ 氏

 私はこれまで、物理的成長の問題を特定し、各国々や都市あるいは地域に対して準備をし、今後起こるであろう問題に適応できるよう備えるための支援をする。こういった作業に従事してきた。

 私にとっての仕事の成果、すなわち持続可能な社会は、どこにも生まれてないと思われるわけだが、やはり今後、具体的に私のこれまでの研究の成果がここに結実したというものを見ていきたい。

 持続可能な社会とはどういうものか。人間の制度や体制として物理的な成長を伴わないというものはどのようなものなのか。日本の江戸時代に唯一の例がある。250年間、日本人はある意味、持続可能な社会を日本に維持してきた。つまり人口の増大はほとんどなく、再生可能エネルギーのみを使い、リサイクルを行い、そして技術的な進歩もあった。生活の質が良くなったという意味でQOL(生活の質)も確立されていた。基本的には持続可能なシステムだったのだが、日本でも今やそのシステムは機能していない。西洋社会は言うまでもない。

 そこで、私としては懸命にこの時代の日本のシステムをよりよく理解しようと努めている。日本に来て、侍の映画などをいろいろ見ているが、こういった文化的な側面から古いシステムがどういうものであったかを理解しようとしている。

 映画の中でよくあるのが、悪人の侍と良い侍が出てきて、最後はだいたい戦いになる。30秒ぐらい打ち合い、その後お互いが離れ距離を取る。正義の味方、良い侍の方は刀傷を負い、悪人の方は仁王立ちになっているが、バタンと崩れ落ちるのは悪い侍の方。戦いをしている間に実は非常に深い傷を受けていて、実はお前はもう死んでいるのだ、という状態が悪い侍には分かっていない。これが現在の状況ではないだろうか。

 大手自動車メーカーは死んでいる。グローバル化これはもう死んでいる。ところが死んでいるというのが分からない。短期的には、また何とか問題を是正して前のようによみがえると思っているかもしれない。しかし、そうではない。すでに死んでいる。

 今や新しい時代に入ろうとしているが、どんな時代になるか分からない。これまでと異なる時代、時期になるはずだ。

 皆さんも考えていただきたい。日本がどれだけ変化をして来たか。例えば1850年すなわちペリー提督の来航以来、2000年までの150年間でどれだけ変わってきたか。江戸時代から今までの間にである。技術の変化、あるいは経済の変化、政権や政府の変化や交代があり、政治の制度も変わり、人口などすべてが変わってきた。この変化というのは、これまでの150年間を経て来たものだが、次の30年の変化に比べれば微々たるものだ。次の30年、皆さんが生きている間の変化の方が150年の変化よりも大きな変化になる。

 変化を生む要素の1つは地球温暖化・気候変動。気候変動については細かい部分に関して不確実な部分があるが、専門家の一致するところとして、変動の速さが予想以上に速い。氷がどんどん無くなっている。降雨量の変動も予想以上に速い。海洋生物への影響も思っている以上に速い。

 もう一つはエネルギー。10年もたてば、世界の産油量が2006年にピークに達していたと気がつくはず。今後、産油量は徐々に下がってくる。産油量というのは工業化された国にとって主要なエネルギーであるため、これによって強制的に大きな変化が生まれるはずだ。ドイツの科学チームが、産油量は20-25年で半分になると言っていたが、世界的な金融危機で鈍化しているものの、産油量が減っていくことには変わりない。

 こういった難しい局面があり、これが政治・経済にも影響を与えていく。政治システムは危機の時に変わる。どう変わるかは分からないが。ただ確実に言えるのは、民主的な国家と独裁的な国家の体制の関係が変わって来るということだ。ほかにも中国で深刻な問題となるのが水不足。食料にも影響を与える。これが国際貿易価格にも影響を与える。そして中国の水不足は日本にも影響を与える。などなどたくさんあるが、こういった変化のスピードが変わっている。実際、近年これが起きている。

 報道の皆さんが考えなければいけないことは、日々記事を書く、読者は起きたら新聞を読む、また次の日も読むということを続けるうちに、長期的にみる時間軸の視野が失われてしまうことだ。8カ月前、米国の大手投資銀行が無くなってしまう、大手自動車メーカー2、3社が無くなってしまう、日本の輸出量が6割減になると言ったところで、誰も信じてくれなかったでしょう。それぐらい状況変化は急速に起こり得るものだ。

 われわれがこれから理解すべきは、変化を阻むことではない。変化は起こり、阻むことはできない。ただその方向をわれわれが最も重要だと思う方向にいかに導くかということが重要になる。

 私もこの問題に対する答えは持っていない。皆が1人1人答えを見い出さなくてはいけない。それは国によって違う変化であろうし、日本の解決策というのは米国の解決策とも違うだろう。米国でも大きな変化に対しての解決策は違うだろう。

2009年日本国際賞受賞者、ニューハンプシャー大学名誉教授 デニス・メドウズ 氏
デニス・メドウズ 氏
(Dennis Meadows)

デニス・メドウズ(Dennis Meadows)氏のプロフィール
1964年カールトン大学卒業(化学専攻)、69年マサチューセッツ工科大学で経営学博士号取得。米原子力委員会化学研究員、マサチューセッツ工科大学経営学助教授、ダートマスカレッジ経営学・工学助教授・正教授、資源政策センター所長、ニューハンプシャー大学システム政策学教授、政策社会研究所所長を経て、2003年インタラクティブラーニング研究所代表に。72年に公表されたローマクラブへの報告「成長の限界」のプロジェクトリーダーを務め、資源・環境・土地などの地球の物理的容量の制約にもとづく要因を放置すれば社会が危機的状況に至り、これを抑制するために出来るだけ早く人口と物資消費のゼロ成長を実現することを提唱して、世界に大きな衝撃を与えた。その後も一貫して物質的拡大の原因と有限の地球上にもたらす問題に取り組み、環境研究ネットワークであるバラトングループを創始している。持続可能な開発をテーマにした教育的ゲーム、著作も数多い。

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