農村研究フォーラム2008「人口減少・低炭素社会に向けた農村地域における資源管理」(2008年11月21日、農村工学研究所 主催)講演から
1キロワットの発電能力があれば、1カ月で720キロワット時となり、家一軒の電力需要に見合う。これまで、適正な評価が行われてなかった小水力、具体的には出力1,000キロワット以下の水力開発に着目した地域再生モデルを提示する研究を進めている。脱温暖化を指向した新たな分散型エネルギーシステムの確立と導入を核とした自立型地域社会の形成が狙いだ。
高齢化が進む日本の農山村地域の過疎化は深刻な問題になっている。国土交通省の調査によると、10年以内に消滅の可能性がある集落は全国で422に上る。農山村地域は、水資源、森林資源、農作物が豊富な地域で、その維持機能を果たしてきたのが集落だった。日本はこれまで海外からの資源、食料輸入に頼ることもできたが、世界的なエネルギー・食料の高騰と、環境・温暖化問題を考えれば、これからは国内の天然資源の有効活用が必須となる。農山村地域から集落が次々に消滅することは、貴重な天然資源の維持管理ができなくなってしまう恐れが高いことを意味する。
こうした事態を防ぎ、地域資源を地域の手で活用するスターター役として「小水力」は十分なポテンシャルを持っていると考えている。
小水力をうまく利用している先進国にドイツがある。2005年のドイツの発電における一次エネルギー構成に占める再生可能エネルギーは約7%。このうち、46%を水力が占めている。発電用水車が7,350カ所あり、このうち5,000キロワット以下の小水力発電所は7,200カ所に上る。さらに小水力発電所は年々増加しており2006年には7500箇所以上に増加している。ドイツの河川は傾斜が緩く、日本に比べ発電に有利とは言えない。しかし、個人、コミュニティ、企業、自治体などさまざまな事業者によって発電所が建設され、地域に電力を供給、地域の生活と産業を支えている。
マイン川の支流であるタウバー川に沿って古くから多数の小水力発電所が散在している。落差が1.4メートル、毎秒1.5トンの取水量で最大18キロワットを発電する個人所有の発電施設なども視察してきた。
日本に小水力発電を普及させるにはいくつかの問題がある。水利権など水利用に関する法制度的制約の責任が国、行政に偏りすぎて地域主体の意思決定ができないことに加え、多様な利害関係者の調整システムが未整備のため、地域主体の合意形成メカニズムがない。さらに大電力会社による大規模な発電・送電、電力供給システムに頼ってきたことと、諸外国に比べると必要以上に高い技術的要求水準を求められることから地域にはある種の「あきらめ」があり、地域の潜在能力や潜在資源に対する理解が圧倒的に不足していることなどが障害となっている。
われわれは、全国第1位の包蔵水力を有する岐阜県の中山間地域と、全国2位の包蔵水力を有する富山県の山村地域を対象に出力数キロワットの発電施設を設置し電力利用、需給調整といった社会実験に着手する計画を持っている。さらに小水力利用の技術的課題・制度的制約・合意形成上の問題などを抽出して、地域に根ざした自立型エネルギー開発の成立要件を明らかにし、「小水力を核とした脱温暖化の地域社会形成」に必要となる事業モデルの確立を目指したい。
上坂博亨(うえさか ひろゆき)氏のプロフィール
1980年筑波大学第2学群生物学類卒、87年筑波大学大学院博士課程学位取得(理学博士)、富士通株式会社入社、2000年富山国際大学地域学部助教授、03年フランス・欧亜ビジネス管理学院(ISUGA)客員教授、04年から現職。専門は環境情報学・システム分析設計。富山県小水力利用推進協議会理事・事務局、NPO法人エコテクノロジー研究会理事も。